山形新聞連載コラム(1):ボードゲームと弱いつながり

地元山形新聞で今年1年、「日曜随想」というコーナーで連載をすることになった。さまざまな立場の筆者5人が交替でコラムを執筆し、その中で私は、「やまがたボードゲーム協会会長」という肩書で、ボードゲームについて書いていく。コアな話でもいいということだったが、読者層を考え、地元での仕事や役職と絡めて、ボードゲーム以外のことと関連をもたせたいと思っている。
第1回は1月12日からスタート。5週に1回なのでだいたい月1回のペースとなる。山形新聞社の許可を得て、当サイトに転載する(表記などで新聞に掲載されたものと異なる場合あり)。今後も、5週ごとに掲載され、その翌日以降に転載する予定。


 私の趣味であるボードゲームとは何かと聞かれれば、「囲碁、将棋、麻雀、人生ゲームなどです」と答えるとたいてい納得してもらえるのだが、将棋は息子と何年か前に遊んだ(そして負けた)くらいで、囲碁はルールも知らず、麻雀も人生ゲームもご無沙汰である。というのも、世の中には多種多様なボードゲームがあり、しかも毎年、何千種類という新作が国内外で発売されていて、その日の気分やメンバー次第でいろいろ遊ぶというのが私の楽しみ方だからである。
 このような楽しみ方をするボードゲーム愛好者は世界的に増加している。毎年秋にドイツで開かれる世界最大のボードゲーム見本市「シュピール」は来場者数が20万人を超え、東京・お台場で開催される日本最大のアナログゲームイベント「ゲームマーケット」は3万人近くが集まるようになった。テレビ、パソコン、スマホと、仕事も私生活もデジタル画面漬けの現代人にとって、そういったものを意識的に遮断して休息することが必要になっている。そこに現実に人とつながれるボードゲームは、うってつけなのだろう。
 ボードゲームは何人かでテーブルを囲んで遊ぶ。盤を広げコマを並べ、カードを切って配り、ルールを説明して始める。妙手に唸り、奇手に笑い合い、駆け引きで相手を見つめ、負ければ悔しがり、勝てば喜ぶ。すっかり打ち解けるから、世間話や笑い話で大いに盛り上がる。こんなに生き生きとした喜怒哀楽を間近で共有できる趣味はなかなかないだろう。
 一方、この趣味は人が集まらなければ遊べないのが欠点だ。夫婦や家族で楽しんでいる方も少なくないが、皆が好きで積極的だとは限らない。同好の士を見つけるのは(特に田舎では)容易でなく、見つかったとしても休日が合わなくて会えないことも。そのため、私のところでは月に一、二回、県内のみならず秋田・宮城・福島から、筋金入りの仲間にわざわざ遊びに来てもらっている。
 このような愛好者の悩みを解消してくれるお店が、ボードゲームカフェだ。現在全国に170店舗ほどあり、山形にも「アソッベ」(山形市あこや町)が昨年三月にオープンした。店内には500種類以上のボードゲームがあり、店長のオススメを聞き、ルールを説明してもらい、コーヒーを飲みながら遊ぶことができる。一人で行っても相席できるので、仲間探しに困らないというわけだ。愛好者だけでなく、仕事帰りの社会人、カップルや家族連れも訪れて賑わっており、客層は20~30代が多く、男女比は6対4ぐらい。年末年始は連日満席だったという。
 アメリカの社会学者グラノベッターが提唱した「弱いつながりの強み」という説がある。無作為に選んだホワイトカラー労働者に、現在の仕事を得た方法を調べたところ、親友や家族よりも、つながりの弱い知人から得た情報をもとにしていたことが分かった。親友や家族は自分と同じ情報しかもっていないが、つながりの弱い人は自分の知らない、新しい情報をもたらしてくれるからだという。
 ボードゲームカフェで出会う人は、顔と名前が一致するくらいの弱いつながりである。ここから新しい仕事につながることはあまりないとしても、仕事や他の趣味のことなど、今まで全く聞いたこともない話をたまに聞けるのは確かに楽しい。ボードゲームというと、眉間にしわを寄せ、黙りこくって遊ぶものというイメージがあるが、実際は初対面でも緊張を簡単に解きほぐし、会話を促すものが多い。ほどよい距離感で現実に人とつながり、ちょっとした会話から知見を広められるのが、今、どんどん人を惹き付けるボードゲームの魅力といえるだろう。

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