国産同人ボードゲームの中にしばしば、ルールが多い割に、プレイ時間が短いと感じるものがある。ルールブックも分かりにくかったりして、解読とインストに20分ぐらいかかり、やっとゲームが始められたと思ったら20~30分ぐらいで終了してしまうことも。「えっ、もう終わり?」 ルールを読むコストに比して、ゲームを遊んで得られるパフォーマンスが悪い。
ドイツのボードゲームデザイナー、W.クラマー氏は良いボードゲームの条件を15挙げている
シンプルなボードゲームは必ず、ルールもシンプルで短いものでなければならない。一方、要求の多いボードゲームは、ルーも複雑にできる。以下のグラフはこのバランスを表したものである。X軸はプレイヤーがゲームの展開に与える影響を表し、Y軸はボードゲームの複雑さを表す。個々のゲームをこのグラフに配置していくと、(1)の領域、つまり斜線の上にあるものはなく、全てのボードゲームが(2)の領域に収まることが分かる。このことから、複雑なルールは、プレイヤーがゲームの展開に大きな影響を与えられるボードゲームに置いてのみ許容されることが結論される。
「ゲームの展開に大きな影響を与えられる」というのは「プレイ時間が長い」ということと同義ではないが、手番の数/手番の選択肢が多く、それによってゲームの展開がどんどん枝分かれするように作られていれば、自ずとプレイ時間は長くなる(手番の数/手番の選択肢が少なくても、その後の処理が多ければプレイ時間は延びる)。時間が短いのに、ルールが多いというゲーム(グラフ(1)の領域にあるもの)はバランスが悪く、許容されないのである。
同じことを、T.ヴェルネック氏も『ボードゲームデザイナーガイドブック』の第7章「成功する見込みはあるのか?」で言っている。
ゲーム内容に比してルールが複雑なものは、ゲーム内容とルールの複雑さがマッチしたものより成功の見込みが低い
次のようなボードゲームは、ルールが簡単で、すぐに始められるものであるべきだ。
・説明が簡単で時間がかからない
・プレイヤーがゲームの進行を左右することが少ない
・運の要素が自分の選択よりも本質的に強い
・興奮して熱くなりやすい
・部数がたくさん発行されるのにふさわしい
プレイ時間の割にルールが複雑なのは、盛り込みすぎてルールの整理ができていないという事情がありそうだ。メインコンセプトはオリジナリティが高くても、いろいろな付加要素がその良さを薄れさせてしまう。こっち屋のゆお氏は『正気度ヌルから始めるゲーム製作』で次のように述べている。
ゲーム好きが高じてゲームを作ろうとすると、どうしても「俺が好きなあのゲームの要素、このゲームの要素、そしてオマケにそのゲームの要素を入れてハイドーン!」という、ちゃんこもとい闇鍋をやってしまいがちである。無計画に具材を投入して美味しい料理ができるのなら誰も苦労しない。気まぐれで料理して許されるのは腕に覚えのあるシェフだけなんだよ!?
したがって改善する方向としては、ルールの複雑さに合わせてプレイ時間を延ばすのではなく、プレイ時間に合わせて要素をうまく削ぎ落とし、ルールをシンプルにするほうだ。ただラウンド数を増やしたりして時間を延ばすと、クラマーによる良いボードゲームの13番目「緊張感」が失われる恐れがあるからだ。要素を落とすと単調になるかなと思っても、プレイ時間に見合ったものであるほうが大事である。どうしても加えたい要素は、バリアントルールとして提示する方法もある。ゆお氏は削ぎ落とすポイントを具体的に示している。
インストの際に長々と説明したのに結局使われない能力、まず起きない例外のために長々と書かれた判定文、最終ラウンドだけ急に処理が変わる条件分岐などなど……、全て悪あがきである。限られた状況でしか出番がない要素というのはあっても良いが、それならば滑らかな姿をしているべきである。出番が少ない上に手触りも悪いでは、プレイヤーへの嫌がらせにしかならない。
プレイ時間とルールの分量のバランスについては、海外輸入ゲームのヒット作が参考になるだろう。ルールだけでなく例も入って、『ハゲタカのえじき』(20分)が2ページ(折りたたみ)、『カルカソンヌ』(30分)が4ページ、『アズール』(30~45分)が5ページである。