シュピール’18:2日目(IGA、パネルディスカッション)

ドイツ・エッセンで行われている世界最大のボードゲームメッセ「シュピール」のレポート。昨日は入場まで30分もかかったので、開場30分前に入ったところ信じられないほど空いていた。ゲームマーケットと比べると出足は鈍いようだ。
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入口に近いため、最も混み合う3番ホール。今日は半屋外通路で屋台が並ぶ「ガレリア」まで混んでいた
なかなか試遊卓の空かないフォイヤーラントシュピーレに朝一番で入り、1ゲーム遊んで、午後からは国際ゲーマーズ賞の授賞式に立ち会う。多人数ゲーム部門の『ガンジスの藩王』は、作者のブラント夫妻が欠席し、代わってフッフの社員の方が楯を受け取った。2人ゲーム部門の『コードネーム・デュエット』は作者のV.フヴァチル氏が臨席。一緒に写真を撮ってもらう。

ボードゲームギークのブースで行われた授賞式。『カウンターマガジン』のA.ハウ氏(イギリス)がスピーカーとなった

V.フヴァチル氏およびチェコゲームズ出版の方と記念撮影
その後、パネルディスカッション「これからドイツと世界はどのようにボードゲームをプレイするのか?」を聴講。ゲームデザイナーのE.ラング氏、F.フリーゼ氏やプランBゲームズのS.グラーヴェル氏らが現在のボードゲーム市場について1時間半にわたって語り合った。

国際化が進む現在、言語依存のあるゲームのローカライズはどうするのがよいかというのが最初のテーマ。アイコンにすれば共通のコンポーネントでコストがかからないが、少しでも複雑になると、アイコンではかえって分からいにくい(いわゆる「トロワ語問題」)。フリーゼ氏は「アイコンより言葉のほうが分かる」と述べた。ところが言葉にすると、誤訳の可能性が出てくる。昨年プラハのボードゲームショップで、チェコ語版をゲーマーは信頼していないという話を聞いたが、日本でも度重なるエラッタ発表で同じ状況が生まれつつある(信頼していなくても、チェコ人もよりも英語が読めない日本人は日本語版に頼るしかないのだが)。
ローカライズの話は言語にとどまらない。国民性に適合した内容とはどういうものかが次に話し合われた。ドイツは正確さを重んじ、ボードゲームを課題の挑戦と捉えるが、ラテン系諸国はゲーム体験を重んじるとグラーヴェル氏。それに伴い、それぞれ戦略ゲームとパーティーゲームが主力になる。
日本は家が狭いから小さいゲームが売れると司会者が述べた。この言説はフランスのボードゲームデザイナー・B.フェデュッティ氏による「日本のミニマリズム」以来、ずっと言われ続けてきており、先日シュピールボックス誌のオインクゲームズ特集でもクローズアップされた。これに対しグラーヴェル氏は「でも『パンデミック・レガシー』は日本でよく売れている」と反例を示したが、我々日本人は、どれだけ狭い家を想像されているのだろう。国際比較では、日本の1戸あたり平均床面積は96㎡で、ドイツの95㎡より広い(NTTコムリサーチ)。そもそも小さいゲームが売れるというのは本当なのか、仮にそうだとしてもそれは住宅面積のせいなのかは、もう少し慎重に考えなければならないだろう。
次の話題はキックスターターへ。パネラーはクラウドファンディングを利用していない人ばかりだったので、「編集や選別のプロセスを経ていないので、ノイズになる」(グラーヴェル氏)といった冷たい意見が目立ったが、無名のデザイナーが才能を発揮し、刷りすぎのリスクを減らせるものとして有効という意見もあった。これと同じことは、TwitterやSNSによる宣伝にもいえる。ボードゲームがそれほど盛んでない国から世界に売り込むには、バズることがポイントになる。何しろこのシュピールで発表される新作だけで1400タイトル。「そのうち来年まで残るのはいくつでしょう?」とグラーヴェル氏。
最後に、このパネルディスカッションのタイトルでもあるボードゲームの将来についてひとりひとりコメントが求められた。人間は社会的存在である以上、集まって何かするということはなくならないし、遊ぶことは人間の遺伝子の中心にあることから、これからもボードゲームは遊ばれ続けるだろうという楽観的な味方が全員だった。ただし新作については、「今より少なくなるが、今よりよくなる(less but better)」(グラーヴェル氏)という。ゲームマーケットの新作も同じだが、いつ新作バブルが弾けるかと言われ続けてはや数年。リリースはこれからも増え続け、内容はカオスの度合いが高まるというのが本当のところではなかろうか。製作者の宣伝はともかく、ボードゲーム賞など面白いゲームを選び出す仕組みのほうが重要になると見た。
今日遊んだゲームは2タイトル。

『富士(Fuji, Feuerland)』はW.ヴァルシュ氏の新作協力ゲーム。噴火した富士山の溶岩を逃れて村まで全員逃げおおせることを目指す。各自ついたての裏で5~6個のダイスを振り、ダイスの内容を言わないで行き先を相談する。各マスには対象となるダイス(赤、青、黄色、出目、奇数偶数)が決められており、該当するダイスについて、隣のプレイヤーと出目の合計を比べ、差分が小さいとダメージを受ける。これが溜まってゼロになると死亡で、一人でも死ぬと全員の敗北となってしまう。そうならないように、アイテムや各自の特殊能力を駆使して、ダイス目の不運を補いつつゲームを進める。
ドイツ人と日本人が英語で相談して、1回目でいきなり余裕の勝利をしてしまったので、どこかインストの抜けがあったかもしれないが、出目をお互い見ないで「ここのマスに行きたいんですけど」「私も行きたいので、ほかのマスに行ってくれません?」「どれくらい厳しいですか?」「かなり厳しいです」といった曖昧な会話が繰り広げられるのは『ザ・マインド』を彷彿とさせる。

『アズール:シントラのステンドグラス(Azul: Stained Glass of Sintra, PlanB Games)』については別エントリーで紹介したいが、前日も遊んでルールは知っているというドイツ人の夫婦と遊んだ。途中で大学生の息子さんがやってきて、「もうすぐ終わるからここで待ってて!」と言っていたのが面白い。シュピールではこのように、子どものためではなくて、自分たちの楽しみのために来ている夫婦をよく目にする。

『アズール』購入者にサインするデザイナーのM.キースリング氏とグライックのC.クイリアム氏。後ろにエッガートシュピーレの社長P.エッガート氏が通りかかるというレアな写真
早めに会場を後にして(といっても18時近かったが)、エッセン中央駅前でお土産を買い、グリューワインを飲んだ。グリューワインといえば赤ばかりかと思っていたたが、白もあったのでそれを注文。寒空の下、仮設のベンチに座り、グリューワインでカリーヴルスト(カレー粉をまぶした焼きソーセージ)やフリカンデル(揚げソーセージ)をつまむ姿は昨日以上に居酒屋感があった。