盛り上がるクラウドファンディング

『枯山水』の製作者・山田空太氏の最新作『江戸職人物語』の英語版”IKI: A Game of EDO Artisans”が、キックスターターで資金を集め出版されることになった。目標額2万7000ドル(327万円)に対し、3倍近くの7万8,046ドル(944万円)を集め、ストレッチゴール(達成額に応じて追加される特典)を次々とクリア。日本発のボードゲームとしては過去最高となっている。
アメリカのニュースサイト「ファイブサーティーエイトライフ」はキックスターターでボードゲームが盛り上がっていることを報じている。ここにその要約。
2012年に1万5000ドル(182万円)を集めた『人倫対戦カードゲーム(Cards Against Humanity)』。これが有名になったのがきっかけで、これを超える作品が次々と現れるようになった。これまでの最高額は、当サイトでも報じた『爆発する子猫(Exploding Kittens)』で、22万人が880万ドル(10億6000万円)を出資している。
クラウドファンディングがボードゲーム界で果たす役割が2つあるという。1つはユーザーがどれくらいプレオーダーしたいか手軽に分かる方法。ウェブページでゲームの概要を説明すれば、リアルタイムでそのゲームの需要を知ることができる。もう1つは、民主的なツール。これまでのようにデザイナーが出版社にもちこみ、ボツになったり改変されたりすることがなくなり、デザイナー自身が出版社となれる(粗製濫造が広がる恐れもある)。
このような2つの役割に加え、ボードゲームはビデオゲームと比べ製作費が格段に安く、500ドル(6万円)ぐらいからでも可能なため、キックスターターではボードゲームのプロジェクトが溢れかえることになった。『ダンジョンズ&ドラゴンズ(1974)』、『マジック:ザ・ギャザリング(1993)』、『カタン(1995)』に続いて、キックスターターの開始(2009)が、アナログゲームのマイルストーンだという人もいる。
開設からこれまで、ボードゲーム・カードゲームに出資された総額は1億9600万ドル(237億円)。そのうち93%のお金がプロジェクト成立に回ったという。ビデオゲームのプロジェクトが1億7900万ドル(217億円)で、85%が成立だというからアナログゲームのほうが強い。1ヶ月に成立するボードゲームのプロジェクト数は、2014年から毎月100タイトル以上のペスになり、2015年には150タイトルを超える月もある。
キックスターターでのプレゼンの仕方についてデザイナーたちの情報交換も進み、サポートするサイトも現れ始めた。インターネットのレビュアーがブログやポッドキャスト、SNSで新作を取り上げ、ボードゲームギークなどが評価・写真・コメントをまとめるのもプレゼンに役立っている。
これだけゲームやデザイナー増えると、キックスターターにアイデアを投げただけで一攫千金を期待することはできない。成功するには、注意深く、ウェブに精通した準備をして、出資者の興味を引く必要がある。「最初の2日間が肝心」という。
このゴールドラッシュはこれまで問題なく続いているが、連邦取引委員会が、クラウドファンディングで初めての詐欺事件を取り上げた。『アトランティックシティに訪れた運命(The Doom That Came to Atlantic City)』というボードゲームのプロジェクトは1,200人から12万ドル(1450万円)を集めた。しかし実際にはゲームを作らずに流用したており、返金することになったがまだ履行されていないという。
もっとも多くの愛好者にとってキックスターターは、純粋に自分の作ったゲームを遊んでほしいという願いを叶える場所だ。日本でクラウドファンディングがあまり広がらないのは、ゲームマーケットがこの役割を果たしているせいかもしれない。
※為替レートは2015年8月28日現在で計算
Kickstarter:IKI: A Game of EDO Artisans
FiveThirtyEightLife:Crowdfunding Is Driving A $196 Million Board Game Renaissance
The Washington Post:Game over: FTC goes after board game campaign gone wrong in first crowdfunding case

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