ドイツ年間ゲーム大賞とは

ドイツゲームの発展の一要因として、ドイツ国内で愛好者が毎年のベストゲームを選び賞を与えたということが挙げられる。その先駆けとなったのがドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres ゲーム・オブ・ジ・イヤー)です。この賞は1979年から毎年行われ、ゲーム雑誌の編集者やジャーナリスト、ゲーム祭の主催者などゲーム専門家約10名で選考委員会を組織し、1年に数百タイトル出ているゲームからベストゲームを選出している。

これは、どのような賞だろうか?

ドイツのゲームの箱に、下のようなマークを見たことはないだろうか? 一般向け「Spiel des Jahres(年間ゲーム大賞)」は左側の赤いポーン(チェスのコマ)のマーク、キッズ向け「Kinderspiel des Jahres(年間キッズゲーム大賞)」は右側の青いポーン、愛好者向け「Kennerspiel des Jahres(年間愛好者ゲーム大賞)」は奥の灰色のポーンである。そして、マークの下の余白に、以下のような文字が書かれています。

  •  Kritikerpreis 評論家賞
  •  Auswahlliste 候補
  •  Nominiert ノミネート
    Empfehlung 推薦

このロゴをつけるには選考委員会にライセンス料を支払わなければならないが、受賞作品は皆が購入するためそれを補って余りある10倍以上の売上増になるという。運営委員会は完全な中立を守るため、企業やデザイナーから資金を一切もらわず、ロゴのライセンス料だけで運営されている。これがまた権威と信頼の原因となるのだ。

ちなみに小さなメーカーを保護するため、最初の10,000個までのライセンス料は安く設定してある。また大賞作品はマークを永久に表示できますが、ノミネート作品は2年間しか表示できないという規定がある。これは新しいゲームに目を向けてもらうためだろう。

さて、審査員は10月のエッセン・シュピールと、1月末から2月頭のニュルンベルク・シュピールヴァーレンメッセを中心として新作情報を収集する。そして各人数でプレイしたり、熟練者や初心者を交えてプレイしたりしながら、次第に注目すべきゲームを見定めていく。この結果を元に4月初頭に各審査員が20タイトルずつゲームを選ぶ。重複もあるがこの時点で全体では50タイトル以上のゲームが並ぶ。

5月初頭になると審査員の情報交換会が開かれ、各審査員は5タイトルに絞って点数をつける。点数は上から15点、10点、6点、3点、1点というようにつけられ、事務局でこれを集計する。集計方法は「総得点×選んだ審査員の数」である。つまりたくさんの審査員に選ばれていれば点数がそこそこでも得点が高いことになる。

5月中旬になると、この集計をもとに外部者を遮断した会議が数日間に渡って行われる。この間何度もプレイされ、また激しい議論が戦わされる。この会議の結果、ノミネート作品と推薦リスト作品が選ばれる。どうしても絞りきれない場合は審査員の決選投票もある。2003年まではこの時点で10タイトルをノミネートしており、さらに1999~2003年には5月末までに最終ノミネートを3タイトルに絞っていたが、2004年からノミネート数が最初から減らされた。また子どもゲーム部門の拡充に伴って、各種特別賞も廃止されている。

ここで1ヶ月ほど、これらノミネート作品が発表されて一般に広く認識されるようになる。あちこちでノミネート作品がプレイされ、またトトなどが行われて皆発表を楽しみにしている。

そして年間ゲーム大賞の発表は6月下旬、ベルリンにてセレモニーが行われる。「オスカー・アーベント」がそのクライマックスだ。ステージにはノミネート作品が展示され、そのゲームに似合ったコスチュームを着た人がパフォーマンスをする。そして100人以上のデザイナー・業界関係者が見守る中、明かりが消され、スポットライトがぐるぐる回る。
「年間ゲーム大賞は……!」
次の瞬間歓声とため息の混じった最高潮の盛り上がりを見せ、その年の年間ゲーム大賞が発表される。そしてゲームデザイナーやメーカーの社長による記者会見とインタビューなどがあって、ニュースはドイツ国内ばかりか、世界中を駆け抜けるのだ。

さて、これまでどのようなゲームが受賞しているのだろうか。ドイツのサイトSpielbox-onlineで受賞傾向が分析された。そこではゲームの要素を運(偶然性)・論理(組み合わせの多さ)・ブラフ(情報の隠匿性)に分類して三角グラフを作成、次にゲームの得点方法を双六型(ウサギとハリネズミなど)・ノックアウト型(ブラフなど)・得点積み上げ型(カタンなど)・最後公開型(ドリュンタードリューバーなど)という得点方法に分けて配置している。

これによると対象設立当初の79~85年は特に傾向がなく、さまざまなゲームが選ばれていた。86~93年は論理離れの時代、94~00年は反対に論理志向をみせて、01年からは再び運の要素が強まった。得点方法としては得点積み上げ方が主流となっている。ただ全体としては適度にばらけており、特定の要素に偏っているということはあまりなさそうだ。つまりいずれかの要素が特に評価されやすいという傾向はないということになる。

これまでに大賞を受賞したゲームは、実際かなりの販売数を上げている。

大賞 受賞年 タイトル 販売数 備考
1980 ラミーキューブ 4000万 公式ページの発表による
1982 ザーガランド 400万 ラベンスバーガー社の発表による
1983 スコットランドヤード 350万 ラベンスバーガー社の発表による
1990 貴族の務め 100万以上 ユーバープレイ社による
1991 ドリュンター・ドリューバー 30万(初年) ハンス社、ブルンホファー氏による
1993 マンハッタン 30万(初年) ハンス社、ブルンホファー氏による
1995 カタンの開拓者 300万(拡張含まず・初年30万) コスモス社の発表による
1996 エル・グランデ 30万(初年) ハンス社、ブルンホファー氏による
1998 エルフェンランド 45万 アミーゴ社の発表による
1999 ティカル 33万強 Ludothek Leipzigのニュースによる
2000 トーレス 約20万 Games We Playの報告による
2001 カルカソンヌ  100万(拡張含まず) ハンス社、ブルンホファー氏による
2002 ヴィラ・パレッティ 35万 ツォッホ社の発表による
2004 乗車券 30万(初年) デイズ・オブ・ワンダー社の発表による
2005 ナイアガラ 32万(初年・ヨーロッパのみ) ツォッホ社の発表による
2006 郵便馬車 40万 www.fr-online.deによる
2007 ズーロレット  29万(国内25万、国外4万) www.morgenweb.deによる
2009(KSdJ) 誰だったでしょう? 22万 ラベンスバーガー社の発表による

ちなみに、大賞を受賞しなかったゲームの売上は以下のようになっている。

ラビリンス 600万 ラベンスバーガー社の発表による
ボーナンザ 130万 ファンブックによる
テンポ(ランドルフ作) 120万 ラベンスバーガー社の発表による
ニムト 100万強 クラマー氏のインタビューによる
ジェットコースターに乗ったカバ 100万強 ラベンスバーガー社の発表による
マスターラビリンス 100万 ラベンスバーガー社の発表による
にわとりのしっぽ 70万 www.nzz.chによる
ロッティカロッティ 58万 ラベンスバーガー社の発表による
カルカソンヌ拡張 27万 ハンス社、ブルンホファー氏による
カエサルとクレオパトラ 15万強 meOmeのレポートによる
プエルトリコ 3万 フェアプレイ、バルチ氏による
モダンアート 1~2万 ハンス社、ブルンホファー氏による
チグリス・ユーフラテス 1~2万 ハンス社、ブルンホファー氏による

近年では日本でも相当のタイトルが日本語化され、注目ゲームなどの動向を知ることができるようになった。従来はノミネートされてから輸入されるケースが多かったものの、今ではノミネートされた時点でかなりの数が日本国内に出回っている。また、インターネットによって結果もすぐにわかるようになった。

このマークが目印。どのゲームを購入したらよいか迷っている方は、ひとつの目安にしてみてはいかがだろうか。近年は戦略重視の重めのゲームから、再びルールの易しいファミリーゲームへの回帰が見られ、トレンドはだんだん変わっているようだが、だいたいのところ(ドイツ人の感覚とずれたりもするので・・・)ハズレのない選択ができることだろう。