E.マーティン氏と都内ボードゲームショップ巡り

ゲームマーケット2015春の翌日、来日中のアメリカ人ボードゲームジャーナリストE.マーティン氏を案内して、都内のボードゲームショップ巡りをしてきた。
E.マーティン氏は毎月300万人が訪れる世界最大のボードゲームサイトBoardGameGeek(以下BGG)でニュースサイト「BoardGameGeek News」を運営している方で、年齢は46歳。新作のリリース情報だけでなく、デザイナーズノートなども掲載しており、圧倒的な情報量を誇る。もとは専門誌『ゲームズ(Games)』のライターだったが、ブログでボードゲームニュースサイトを始め、2011年からBGGに加わっている。来日は2度目で、前回は沖縄旅行だったというので、東京に入るのは初めて。
ゲームマーケットの印象を尋ねると、ものすごい活気があったという。エッセン・シュピールをはじめほかのイベントは、ボードゲーム出版社が主にブースを出しているのに対し、ゲームマーケットは個人サークル(”independent”)がメイン。ゲームを作った人が直接売るというスタイルが、活気を生んでいるとマーティン氏は分析する。今回のゲームマーケットでは、毎回訪れているカクテルゲームズ(フランス)のほかに、TMG(アメリカ)やハンス・イム・グリュック(ドイツ)が視察に訪れていたというから、世界からの注目度の高さが伺える。
また、出版社を通さないことで多様性が残されているのも魅力だという。例えばドイツのハンス・イム・グリュック社には優秀なディベロッパーがいるが、そのためにどんなゲームもハンス風になってしまって多様性が取り除かれてしまう。その点、日本のゲームは独自・自由に制作されているため、同じようなものには決してならない。ディヴェロッパーの不在は必ずしも悪いことではないようだ。
さて、ゲームショップ巡りは昨年9月に店舗移転した高円寺のすごろくやから。開店直後からもうお客さんがどんどんやって来る。しかも若い男性グループ、孫へのゲームを探している年配のご婦人、中国人、そして我々と客層もさまざま。ボードゲームシーンの玄関口となっている模様だ。マーティン氏は30分ほど見て回って、クニツィアの『京都』『なつのたからもの』、新作の『王への請願』を購入。
『ストリームス』の箱を見ながら、子どもっぽい英語版よりずっといいとマーティン氏。そこからパッケージデザインの話にもなった。アメリカでは、多言語版は受け入れられず、箱の表にも裏にも英語しか書かれていないものが手に取られるという。またイラストはファミリー向けのポップなものが好まれ、写実的なものが好まれるドイツゲームや、シンプルなものが好まれる日本ゲームとは異なる。しかし世界のフリークにとって、シンプルなパッケージも日本ゲームの魅力のひとつになっている。マーティン氏も『ストリームス』や『なつのたからもの』のようなパッケージデザインが好きだという。
続いては秋葉原のイエローサブマリン。近年同人ゲームに急速に力を入れており、その品揃えは日本一といってよいだろう。早速、前日のゲームマーケットで発売された新作がダンボールに入って積まれていた。一両日以内に発売する見込みだという。ショーケースに感心しつつ、『ロストバイブル』を購入。
マーティン氏の好きなゲームは『イノベーション』だが、決してフリークゲームが好きなわけではない。事実、『テラミスティカ』や『カヴェルナ』などのゲーマーズゲームはプレイせず、毎年そのようなゲームを選んでいる国際ゲーマーズ賞の審査員も断っている。『イノベーション』はやることがシンプルな割に、展開が多様でサプライズも多く生まれるところがよいという。そのような好みであれば、ドイツゲームや日本ゲームに目が行くのも納得できる。
最後に同じ秋葉原のロール&ロールステーションへ。ここにはすでに、ゲームマーケット新作が並んでいた。ゲームマーケットに行かないと買えないという時代はもはや終わりかけているかのようだ。委託販売分は基本3ヶ月で返品されるため、回転も早い。マーティン氏は『プリンセスワンダー』を購入。
ロール&ロールステーションでは、ゲームマーケット事務局の山上氏と刈谷氏と待ち合わせしており、アークライト本社に移動。ゲームマーケット大賞の候補作をプレゼンしたり、海外イベントの違いを伺ったりして2時間ほど過ごした。その中で、ヤポンブランドの存在が、日本ゲームが知名度アップに大きな貢献を果たしていることが分かった。初期にエッセン・シュピールに持ち込まれた『R-ECO』、英語版が出てアメリカで高く評価された『惨劇RoopeR』、マーティン氏がとても気に入った『忍者対戦』など、日本ゲームのタイトルがぽんぽん出てくる。今回のゲームマーケットでも、今年のエッセン・シュピールに出展されそうな作品をサークル名でチェックしていたという。エッセン・シュピールに出展されるならば英語ルールも製作され、日本語の読めないマーティン氏も遊べるからだ。
共通の話題として、一般層にどうやってボードゲームのことを知ってもらうかという話が出た。日本が『枯山水』の話題で盛り上がっている頃、アメフトのグリーンベイ・パッカーズの選手が『カタン』を遊んでいるという記事がウォールストリート・ジャーナルに掲載され、今更ながら『カタン』を初めて知った人が多くいた。ジェンコンにキッズゲームのハバ社が出展したり、少しずつ一般に開放されつつあるものの、国民人口から考えれば愛好者はまだまだ少なく、一般的な趣味ともなっていない。新聞や雑誌で取り上げられる機会を伺ったところ、クリスマス前に5タイトルぐらい紹介されるのが関の山だというので、まだ日本のほうがましだともいえる。ゲームマーケットではボードゲーム好きな著名人を招待しており、伊集院光氏が来場していたという話もあるが、ハリウッドスターに宣伝してもらうというわけにもいかないしとマーティン氏は笑った。
それから浅草でうなぎを食べ、浅草寺を拝観して、仏壇屋街を上野駅まで歩くという、個人的なおすすめ観光ルート。ドイツのボードゲームジャーナリストの話やお互いの子どもの話、BGGスタッフの話などで盛り上がり、新幹線の発車5分前まで立ち話。10月のエッセンで再会することを約束して帰途についた。

E.マーティン氏と都内ボードゲームショップ巡り」に1件のコメント;

  1. 某所で「枯山水」の取材をしていた新聞記者さんが、一から「カタン」についても教わっていたのを見たことがありました。

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