研修で西東京に行ったついでにふと思い立って立川のボードゲームショップ「B2FGames(ビーツーエフゲームズ)に立ち寄る。引越し準備もある中、吉田店長さんが時間を取ってお話に付き合って下さり、お客さんと閉店までたっぷりボードゲームを遊ばせて頂いた。
ドメモ
ドメモ(Domemo / A.ランドルフ / 幻冬舎エデュケーション, 2009)
ドイツでの発売から36年という歳月を経て、伝説のゲームが今月、日本で再販された。推理ゲームにしてコミュニケーションゲームという、稀有なゲームである。今回の再販は、札が大きめで扱いやすく、札の重心が変えてあって自分のほうには倒れにくいという優れたコンポーネントになっている。色もシックで、知育玩具を求める家族にも受けそう。頭がよくなるかはわからないが、人の気持ちが分かるようになるゲームである。
自分の前に並んだ札、1~7まであるが自分のだけは見えない。1は1枚、2は2枚、3は3枚……7は7枚あることは分かっている。ただしいくつかは場に眠っている。これと自分からは見えるほかの人の札、そしてほかの人の発言をもとに、自分の札を推理するというゲーム。
例えばほかの人の札を見たら、7が3枚しかない。残る4枚のうち、場に眠っているものがあるとしても、自分のところに結構あるのではないかと予想できる。そうしたら7と言おう。当たっていれば、となりの人がその札を倒してくれる。誰よりも早く、自分の札を全部倒すのが目標だ。
ほかの人の発言が重要なヒントだ。さて、前の人が「5」と言ったが、5をもっていなくてハズレとなった。自分から見るとほかの人の5は1枚しかない。ということは、残る4枚のうちいくつかは自分のところにあるのではないか。だから前の人が「5」と言ったのではないかと予想できる。
さらにブラフもまかり通る。前の人が「1」と言ったのに、ハズレだった。自分から見ても1をもっている人はいない。ということは1は場に眠っているのかと思って、「1」を選択肢から外す。ところがなかなか上がれない。実は前の人は自分が1をもっているのを知っていて、わざと1と言っていたのだ。
ブラフもあるから、数の予想の仕方や考える仕草までがヒントになる可能性もある。単純なゲームなのに深い。深すぎる。そして楽しい。
1回目は久しぶりだったので、4が4枚あるのに「4」と言ったり、後で気づいて頭を抱えたのが絶好のヒントになったりと冴えなかった。2回目は上家の吉田店長がハズレた数を言ったら好調に倒すことができ1位。
ルールでは1回1回のゲームで、それでも十分楽しめるが、麻雀のように残った札を失点にして積算すると、トップ叩きなど新たな局面が生まれて楽しそうだ。
リビングストン(Livingstone / B.リアシュ / シュミット, 2009)
ジャラーッと振ったダイスから1つずつ選んで、その目を使って探検するボードゲーム。ゲーマーの快楽ポイントをついた要素が詰め合わせられている。
プレイヤー人数×2個のダイスを一気に振る。その中から1個ずつドラフトして行動。行動には、出目だけ収入を得る、出目のエリアにテントを作る、出目だけ袋から宝石を引く、いろんな効果のあるカードを引くの4択がある。
ドラフトの2個目は、1個目より低い目が取れないというルールがあるので、はじめから高い目を取ることはできない。勝敗に関わるのは状況に応じた選択のほうで、ダイス運のゲームではない。
収入は堅実だが、探検家なら一か八か宝石を引きたい。石ころしか出てこなければ意味ないが、高価な宝石を引ければそれを売って大儲けだ。さらに引いた宝石を売らずに取っておいて、カードを使って得点にすることもできるが、その前に落盤カードが出れば水泡に帰してしまう。
テントはお金を払って作る。毎ラウンド勝利点になる上に、ゲーム終了時には列ごとに一番多く置いていた人にボーナス得点もある。好きな列に置けるカードもあり、トップ取りの競争は熾烈だ。
さらに手番中、宝箱にお金をいくらでも貯金できる。宝箱を開けるのは最後。一番少ない人は、いくら勝利点が高くともゲームから脱落となってしまう。
ここまで読んで、たくさんのゲームを遊んでいる読者のみなさんは要素が似ているゲームを5ゲームくらい思い出したのではないだろうか。プレイ時間は45分。それぞれの楽しさをまとめてダイジェスト版にしたようなゲームである。
建設期(Bürger, Baumeister & Co. / M.シャハト / アバクスシュピーレ,2009)
建築ラッシュに沸く19世紀のフランクフルトを舞台に、建物を作って名声を上げるボードゲーム。シャハトとアバクスシュピーレの新作は『ズーロレット』関連以来である。たくさんのゲームデザイナーの中で、「○○らしい」という形容をされる人は少ない。数少ない選択肢の端々にジレンマをもちこむ「シャハトらしい」ゲームとなっている。
自分の番には手札からチップをボード上に置いて得点し、補充するだけ。同じ区画にある同じ種類の建物が得点になる。だから後になればなるほど得点が高くなるが、待っている間に区画が埋まってしまうかもしれない。これが第一のジレンマ。
チップを置くとき、区画によってお金や得点が入る。お金はチップ補充で好きなものを取ったり、大きな建物を建設したりするのに使い、いつもカツカツなのでぜひほしい。でもお金ばかり取っていては得点が増えないという、第二のジレンマ。
そしてゲーム中に4つだけ、お金を払って大きな建物を建設できる。この大きな建物、その回の得点を2倍にするものと、4点入るものの二種類があり、どちらが高いかは状況によって違う。先に建てればどこでも選べるが得点は少なく、高得点を狙って後から建てれば場所がないかもしれないという、第三のジレンマ。
もっとも、ルールは簡単なのでここまでジレンマにもだえなくても気軽に遊べる。フランクフルトの集会ホール125周年のタイアップで作られており、土産売り場などに置いてボードゲームを遊ばない層にも訴えようとしているのかもしれない。
得点2倍の建物でみんなが大量得点を挙げる中、私もチャンスを虎視眈々と狙っていたが、結局建てられずじまい。チップが来なかったり、来ても引くためのお金がなかったりでダントツビリ。手札は非公開だが、補充からすでに全員の動きを計算できるので、シビアなゲームであった。
フィット(Fits / R.クニツィア / ラベンスバーガー, 2009)
クニツィアがテトリスをアレンジすると、テトリスでなくなる。指定されたブロックを上から落として、隙間を作らないように埋めるというテトリスを基本にしながらも、ちょっとした味付けで全く違うゲームにしている。
まず一番のポイントは、都合の悪いブロックはパスできるという点だろう。テトリスと違って途中で横にずらせないため、十字ブロックなどはとてもジャマである。そこでパスしてそのブロックをスキップできる。これでその場はしのげるが、最後まで上まで埋まらないと失点が待っている。どこまでパスして、どこまで妥協するか。クニツィアのジレンマは寸分も錆びていない。
ジレンマといえば、ブロックの積み方も悩ましい。残りのブロックが何かは分かるが、その順序は分からない。安全に待ちの広いブロックの置き方をするか、特定のブロックがくれば高得点、それ以外は大量失点という危険な手を打つか、考えることは尽きない。
また趣向を凝らした4ステージ構成も魅力だ。第1ステージは埋まった列が1点、空いたドットがマイナス1点としてできるだけ埋めることを目指すが、第2ステージからは違う。第2ステージは数字のあるドットを空ければ得点、第3ステージはさらにマイナスのあるドットを埋めないと大量失点、第4ステージはペアのマークを両方残せば得点、片方だけ残せば失点である。
特に第4ステージは真骨頂で、ブロックの都合上マークを消してしまったら、わずか数段の間にもう1つのマークも消せるよう対応しなくてはならない。残るブロックは全部カウンティングできるから、どのパターンがありえないかも考えていかなければならない。
そしてアナログならではの楽しみ方。自分の台だけ見ていてはこのゲームの醍醐味は半分も味わえない。ブロックがどうしても入らない隣人の苦悶の表情、それを見て優越感に浸っている顔、ぴったり入った喜び、お互いに顔を見ながら遊べば会話も弾む。それに時間制限はないから、あれこれ考えて最善手を見つける余裕もある。
運もよく第3ラウンドまで私がトップを走っていたが、第4ラウンドでリスクの高い積み方をした吉田店長が逆転勝利。1ステージ終わるごとにお互いの得点を見比べあって、駆け引きに富んだゲームとなった。
テトリスだったら遊ばなくていいやと思っている人にこそ、遊んでほしい。
ジェムディーラー(Gem Dealer / R.クニツィア / グリフォンゲームズ, 2008)
去年エッセンに行ったとき、心引かれるラインナップの小箱が並んでいた。『マネー』、『フォーセール』、『ハイ・ソサエティ』……これに一部で人気の『スルーザエイジ』のダイスゲームに、この『ジェムディーラー』を加えて5タイトル。アメリカのゲームメーカー、グリフォンゲームズの本棚シリーズである。『ジェム・ディーラー』は騎士をテーマにしていた『アタック』(1993)のリメイク。タイトルどおり、カードの競りで宝石を集める。
目標は6種類のうち4種類の宝石を集めること。スタートプレイヤーが色を指定して競りを始める。順番にその色のカードを出して競り上げ、勝ち残った人が宝石をゲット。ゲットした人からまた色を指定して競りを続ける。ジョーカーのカードもあるが、別の色のカードでも1回の競りで1回だけ、裏にして好きなだけ出し、1枚1点にできる。
ポイントは、負けても出したカードは返ってこないところにある。たくさんのカードを使い果たして負けた後、次の人がたった1枚で競り落とすのを指をくわえて見ていなければならないこともある。しかも出すのは一度に何枚でも出せるが、補充は出すたびに1枚ずつ。一度使い切ると復帰までパスし続ける羽目になる。一か八か全力で取りに行くか、いったん引いて次のチャンスを狙うか。
はじめにリーチした方がカードを使い切って負け、次にリーチした私もカードを使い切って負けという緊迫した展開。その間に出遅れていた峰岸さんがどんどん宝石を集め、勢いで最後にジョーカーを引いて勝利。誰が上がってもおかしくない状況だった。
競りゲームの常として、プレイヤーが淡々と遊ぶと全く盛り上がらないこともあるだろう。宝石に目の色を変えながら、力をこめてカードを出したい。
聖杯争奪戦(Die Jagd nach dem Gral / E.ソロモン / アルゲントゥム, 2007)
ソロモンのスパイゲーム『シグマファイル』(1970)から4回目のリメイクとなるこの作品。スパイから中世の人物にテーマ変更となった。ゲーム内容はこちら。聖杯を奪った人物が暗殺され、その聖杯を拾った人物が謎の死を遂げ……と聖杯の呪いとその裏に渦巻く陰謀が描かれていてテーマとしていい。
誰かがポイントをつぎ込んでいそうな動きがあるとすぐ消されるという中、聖杯はぐるぐる回るばかり。聖杯を持ってゴールの近くにいる人物にポイントを入れると、それで読まれて消されるので、少し前の段階で入れておかなくてはならない。でも少し前で入れると、その後の展開が大きく変わることもある。ポイントの入れ時がとても難しい。
次々と消されて残り数少ない終盤、ここで入れておかないと後がないと思った私は全力投球。その人物が聖杯を無事に持ち帰ったが、ポイントがなんと同点。手番順で負けとなった。次の手番には峰岸さんが大量ポイントを入れるつもりだったので、私が持ち帰らせても負けていた。協力しつつ裏切り、裏切っているように見せかけて協力するという息のつまるような展開が終始続いて楽しかった。
40年近く経っても、輝きを失わないゲームである。