このところ毎年恒例となっているエッセン直後ゲーム会。米出さん、moonさん、かゆかゆさんをお招きした。プレイ時間が2~3時間級のゲームを2本。「大賞にノミネートされるなら60分くらい」という近年の流れに物足りなくなって発売された長時間ゲームが人気を集めている。これが『カタン』に先導された90年代後半のように、00年代後半のトレンドになろうとしているのか興味深い。
moonさんのレポートはこちら。かゆかゆさんのレポートはmixiでこちら。
アグリコラ(Agricola / U.ローゼンベルク / ルックアウトゲームズ, 2007)
17世紀のヨーロッパを舞台に、農夫たちが家を立派にしたり作物を植えたり、家畜を育てたりして競争するボードゲーム。作者はローゼンベルク。『ボーナンザ』などのカードゲームで有名なデザイナーだが、ここに来て本格的なボードゲームに着手した(とはいえカードが重要な役割を果たしているが)。メーカーのルックアウトゲームズは『ツァバンドール』や『三頭政治の終焉』など重量級のゲームを発表しており、この作品もその流れで登場した。
テーマはのどかだが、システムは至るところまでフリークを満足させる仕掛けが満載だ。
まずは『ケイラス』風のアクション選択。スタートプレイヤーから順番に、中央にあるいくつかのアクションを早い者勝ちで選ぶ。ほかの人の状況を見ながら、優先順位を考えて選びたい。
アクションは資源を入手するもののほか、増築・改築、厩や柵の建設、開墾と種まき、職業、進歩、家族を増やす、スタートプレイヤーを取るなど多岐にわたる。資源を入手するアクションを誰も選ばないと、『プエルトリコ』風に資源が増えて次のラウンドで魅力が増すようになっている。選べるアクションは毎ラウンド1つずつ増えていくので、さらに悩ましい。
アクションを選んだ後は自動的な処理だ。手に入った資源と選んだアクションで、自分の農場の得点を上げる。設備投資も大切だが、忘れていけないのは食料。何ラウンドかに1度、農場ではたらく家族に食料を与えなければならない。食料が足りないと家族は物乞いになってマイナス点。食料の調達方法も多岐にわたるが、計画的に生産しておかないとたいへんなことになる。しかも後半は食料を与える間隔がどんどん短くなっていくのでさらにたいへん。食料の調達を効率よくして、得点に結びつくほかのアクションに手を回せるようにしよう。
職業カードは食料を払って出し、そこに書いてある特殊能力が使えるようになる。例えば「木こり」は木材を得るアクションのたびに追加で木材。「石工」は石を食料に替える。「左官屋」は増築が1回無料。資源を手に入れたり交換したりできるもの、安い資源でアクションできるものなどさまざま。
進歩カードはカードに書いてある資源を払って出し、同じくそこに書いてある特殊能力が使えるようになる。「ミツバチの巣」は2ラウンドに1回食料が手に入り、「織機」はヒツジから食料や得点が入る。「はしご」があれば少ない葦で増築や改築ができるようになり、「葦の家」は家にスペースがなくても家族を増やせる。職業カードと似たような効果をもつものも多いが、中にはゲーム終了時に得点になるものもある。
これらのカードの手札を見ながら、ゲームの方針を考えていくのだ。カードの内容は全員違うから、家、牧場、畑のどれに力を入れて発展していくか、取るべき戦略が自ずと異なる。特殊効果を得て自分だけ何かできるようになるというのは何とも気分のいいものだ。
ゲーム終了時の得点計算は多種多様。家のグレード、厩や家族、畑、牧場、作物、家畜の数が多いほど得点が高いが、いずれかが0だとマイナスになる。あまり極端な展開は損だということだ。あと自分の農場で使っていないマスもマイナス。家・牧場・畑でどれくらい埋められるかが終盤の課題となる。さらに進歩カードの得点があって、合計を競う。得点源が多いので誰が勝っているか最後まで分からない。人事を尽くして天命を待つのみ。
かゆかゆさんが処々にクレバーな打ち回しを積み重ねて1位。米出さんも僅差だったが、途中食料の計算ミスで物乞いをもらったのが痛かった。3位で並んだmoonさんと私は中盤、食料にかまけて設備投資が遅れたかもしれない。終わってみれば各自の農場は写真の通り、性格が出ているようだった。
カードの効果に幅がありすぎてドイツゲームとしてはやや散漫な印象を受けるが、カードと盤面の状況を見比べながらああでもないこうでもないと考えをめぐらすのはまさにゲーマーの快楽。長時間ゲームに属するので何度遊べるかはやや心配だが、何度も遊んでみたい。
アミティス(Amyitis / C.デマージュ / イスタリ, 2007)
王妃の寵愛のためにバビロニア宮殿を緑化するボードゲーム。『ケイラス』、『イスファハン』の大成功で今や世界中のフリークから不動の評価を得ているフランスのイスタリ社の作品で、作者は『イス』のデマージュ氏が再登場した。
ゲームは「技師」「商人」「農民」「神官」という4種類の職業を選び、それぞれのアクションを行うことによって進行する。ボード中央にある庭園でタイルを取って緑地にすれば得点が入るが、そこまでの道のりが長い。
まず、周囲の堀から灌漑をしておくこと。「技師」でタイルのわきに自分のコマを置くと水がつながったことになる。奥のほうの得点が高いタイルは、灌漑を積み重ねてからでないと取れない。
それからラクダを取ること。「商人」でラクダチップ1枚もらえる。このラクダチップを使って、キャラバンを移動し、行き先で庭園のタイルを取る。
庭園のタイルを取るには、そこで指定された資源を支払わなければならない。これを予め集めるのが「農民」。うまく指定された資源をもっていればいいが、必ずしもほしい資源がもらえるわけではないので需給が合わないこともある。
「商人」と「農民」以外でラクダや資源を手に入れる方法が「神官」だ。これは神殿に自分のコマを差し入れ、数と位置で勝っているときにボーナスとしてラクダや資源がもらえるというもの。競争が激しくなればチャンスも減る。
このように資源を集める・ラクダを取る・灌漑するという3つの準備をしてからキャラバンを進め緑地にするという段階を踏んでいく。得点は緑地だけでなく、灌漑・神殿・宮廷カード(キャラバンなどでもらえるボーナス)からも得られる。各段階でほかの人に先を越されないよう、注意深く戦わなければならない。
4種類の職業は各ラウンドのはじめに一定数並べられ、順番に1枚ずつ取ってはその行動をする。何周してもよいが、後で選ぶ職業にはお金がかかってくる。一方、先にパスすればほかの人がやっている間収入が入ってくる。『ケイラス』でもそうだったがお金はいつもギリギリなので、どこで踏ん張りどこで引くかの判断も大切だ。
メインとなる空中庭園の灌漑競争、農民の資源獲得競争、神殿の順位競争、キャラバンの早い者勝ち競争、宮廷カードの先取り競争。5つのゲームを同時に遊んでいるようだが、互いに優劣が絡み合ってゲームを深めている。この5つの競争にそれぞれ目を向けつつ、しかも持ち金とも相談しながら今何に力を入れれば有利か絶えず考える。まさにフリークゲームである。
かゆかゆさんが高得点タイルと神殿の影響力で1位。私は序盤の灌漑で稼いだが及ばず。「イスタリらしい」という参加者の感想は、細部まで作りこまれ、いくつもの要素が絡み合って立体感のあるゲームを指すのだろう。もはや芸術の域といってよい。現代のボードゲームはここまで来たかという感覚を覚えた。