ラリー・ファリー(Rally Fally)
ドイツには「オーバーシュヴェービッシェ・マグネットシュピーレ(Oberschwäbische Magnetspiele)」という磁石専門のボードゲーム出版社がある。流通が弱く、国内で知られているのは『ベッポ』ぐらいだが、ドイツ教育ゲーム賞を受賞するなど注目されるキッズゲーム出版社だ。流通についてもフッフ・フレンズと提携し改善しつつある(エッセンのボードゲームメッセでは見本のみの展示)。
この作品は、今年のドイツ教育ゲーム賞で3歳以上部門に選ばれたものだが、少なく見積もっても5歳以上くらいでないと遊べないと思われる。その代わり、大人だけで遊んでも楽しめる。空飛ぶじゅうたんに乗ってアイテムを集めて回るゲーム。
各自、プレイヤーボードにアイテムを集める順番が指示されている。手番には5枚の手札から1枚を選び、空飛ぶじゅうたんに乗ったお兄さんを移動する。アイテムのところまでたどり着いたら次のアイテムへ。こうして5つのアイテムを最初に集めたプレイヤーの勝ちだ。
ポイントは、ボードが斜めになっているところと、いくつかのマスに磁石が埋め込んであるところ。磁石のあるマスに止まれば落ちないが、磁石がないマスではズズーッと滑り落ちる。エアポケットみたいな感じ。下りならば有利だが、上りだと不利だ。
さらに大人は、移動中にほかの空飛ぶじゅうたんを押しのける。押しのけられてズズーッと。「こら、何をする!」
5枚のカードは使い切らないと手札に戻ってこない仕組みで、アイテムに止まれるカードがないために遠回りしてしまうことも。そうならないように、カードを出す順番も考えなくてはならないが、磁石の有無までは前提にできない。なかなかの大人ゲームなのである。
侍さん、畑さんと3人プレイ。全員揃ってリーチとなったが、侍さんが一手早くゴール。最後の悪あがきで侍さんのじゅうたんを押しのけてみたが、かえって進んで有利になってしまった。そんな邪魔し合いがあるので、大人だけで遊んでも楽しい。
Rally Fally
P.シャッカート/オーバーシュヴェービッシェ・マグネットシュピーレ―フッフ・フレンズ(2012年)
2〜4人用/3歳以上/20分
国内未発売
シュピール’12:新しい伝統
ドイツのボードゲームメッセ「シュピール」では、来月発行予定の『アメージングテーブルゲーム』3号の取材を依頼されていた。ドイツでは日本と違ってボードゲームを普通に楽しめる環境があるという記事で、家族連れで遊んでいる様子や、デパートのボードゲーム売り場をレポートするようにとのこと。
そこで会場内で遊んでいる家族に声をかけて写真を撮らせてもらい、インタビューを行った。以前に『シュピール』でもやったことがあるので割と手慣れたものである。家族もほとんどが喜んで協力してくれる。
インタビューの内容は本誌をご覧いただくとして、今年は平日から家族連れがとても多かったように思う。ドイツでは学校の秋休みが州ごとに定められており、シュピールの期間と重なる年と重ならない年がある。去年は重ならなかったが、今年は重なっているので参加する家族が増えたようだ。
たまたま会ったボードゲームジャーナリストのH.シュレーパーズ氏(games we play)に、どうしてドイツではこんなに多くの家族がボードゲームを遊ぶのか尋ねてみた。日照の少ない天候(特に冬)や論理を重んじる国民性などが理由としてよく挙げられるが、専門家の見方はどんなものだろうか。
シュレーパーズ氏は、「親が遊ぶから子供が遊ぶのだ」と答えた。なぜ親が遊ぶかといえば、大人向けのボードゲームが80〜90年代にドイツでたくさん発売され、その時期から遊んでいたからだという。実になるほどと思った。
日本でも、ボードゲーム中心世代は30代で、子供の頃にボードゲームブームを経験している。しかし(私も含めて)その大方はファミコンブームなどでボードゲームを中断し、最近(10年以内)に再開している。一方ドイツでは、この間にも面白いボードゲームが供給され続け、中断することなく10代、20代を送ってきたというわけだ。
ドイツでも、70年代以前にはキッズゲームが中心で、大人だけで遊ぶことはなかったという。「新しい伝統だ」とシュレーパーズ氏。
なぜ大人だけで遊ぶことを前提としたボードゲームがドイツでかくもたくさん発売されたのかは、分析の余地があるだろうが、ドイツ年間ゲーム大賞の果たした役割は非常に大きい。大人向けのボードゲームなど、もとよりヒットを期待できないわけだが、受賞することで売上が10倍にもなる賞があることは、出版社にとって大きなインセンティブになる。
ドイツの親(といってもシュピールに参加するくらいの愛好者に限られるだろうが)は、決して子供のためにボードゲームを始めたのではない。子供がボードゲームができる年齢になるのを待ちに待って、ボードゲームを始めさせるのである。日本でもそんな大人が増えたら、ボードゲームを普通に遊ぶ文化が根付くのではないだろうか。