ぎりぎりのラインを見極める
メイフォローのトリックテイキングは非常に難しいと思ったのは、もう20年も前に『シュティッヒルン』を遊んだときのことだった。手札から何を出してもよいということは選択肢がその分増えるわけで、その上取ってはいけないトリックがあると本当に何を出したらいいか分からなくなる。『シュティッヒルン』は初心者向けではなく、楽しめるようになるまではいろいろなタイプのトリックテイキングをプレイする経験を必要とした。
その『シュティッヒルン』の作者が6年後に発表したのがこの作品である。タイトルは「知恵を絞って、やっとの思いで」という意味のドイツ語で、邦題はメビウスゲームズによる(「智」から「知」に変更)。ベルリナーシュピールカルテン(ドイツ)から発売され、アラカルトカードゲーム賞で5位に入賞している。そしてそれがドイツ語版以外では初となる日本語版化。風刺画調のイラストも現代風に改められた。数寄ゲームズとしては『ボトルインプ』に続くトリックテイキングの日本語版だが、より通好みでかなりの冒険だったと思う。
ドイツ語版を遊んだ11年前、「ひとつのミスが死を招く」という見出しでレポートしていた(秋葉原水曜日の会 07/04/18
全員が1枚ずつカードを出し、勝者(最初に出した色で一番大きい数字のカードを出した人)が好きなものを選んで得点札にし、残りを敗者(それ以外の色で一番小さい数字のカードを出した人)が引き取る。目標は4色のうち2色だけできるだけ多く集めること。最後に、多く集めた2色の枚数の掛け算を、残りの色の枚数で割って得点にする。満遍なく取ってしまうと、1点か0点にしかならない。
最後に出すときはあまり悩まない。全員が出したカードを見て、選んで取りたければ強いカードを、どれを取ってもよければ弱いカード、取りたくなければ中くらいのカードを出す。悩ましいのは最初に出すときと、2番目に出すときだ。それ以降のプレイヤーは何が出たかによって取るか取らないかを調整してくる。ほかの人が集めているカードを餌にして駆け引きを迫るか、取らなくてもいいように数字の低いカードを出すか、あるいは一か八か出すか大いに迷う。下手なカードを出せば、いらないカードばかり付けられてあっという間に火だるまだ。敗者が次のトリックの最初の1枚を出すというルールで、しゃがみっぱなしができないようになっているところも憎い。
良手は相手次第なところもあるので分からないが、「それ出したら要らないカード食らってしまうだろ!」という悪手は確実に存在する。しかし、カードを全く取るためには、悪手のぎりぎり手前を見極めなくてはならない。あまりに安全策だと、要らないカードばかりでなく、欲しいカードも取れなくなってしまう。
ハイリスクで前半から積極的に取りに行くときと、中盤くらいから調整しつつ集めるときがあり、それは手札次第、相手の出方次第である。さらに場札のカウンティング、ほかのプレイヤーの表情も踏まえれば、1トリック1トリックが濃密である。ここまでの深みを感じられたのは、経験によるものか、仲間によるものか。
知略悪略
ゲームデザイン・K.パレシュ/イラスト・Makiko Kodama
数寄ゲームズ(2018年)
4~6人用/10歳以上/30分