客に向かって早く帰れとは何だ
日本語版の売り上げは、メーカーやデザイナーの知名度に左右されることが多い。その点アークライトが手がける作品は知名度があまり高くないものが多いが、遊んでみるとなるほど目利きが選んでいるなと納得できる。この作品も「一応買った」くらいだったが、シンプルなシステムと奥の深さ、シチュエーションの可笑しさで想像以上に面白かった。
ノルウェー(作者の故郷)、イギリス、ドイツ、日本の4カ国から毎ラウンド、サモア島に観光客がやってくる。また、プール、スウィートルーム、エキストラルームなどの設備が1つだけ用意される。この観光客と、設備を1回の入札で手に入れる。
入札カードは、設備の値付けと観光客の宿泊料が両方書かれており、設備が高くなるほど宿泊料も上がる。一斉に公開して、設備を買えるのは一番高い値を付けた人、観光客を呼べるのは一番安い宿泊料を提示した人。設備投資には金がかかり、観光客では儲からないという苦しさ。
しかも、ホテルには6部屋しかないのに、観光客は宿泊料を前払いして、次にその国の飛行機が来るまで居座り続ける。追い出すには、設備の中に出てくる追い出しタイルを使うか、1ラウンドパスしなければならない。従業員をわざとサボらせて、観光客にお帰りいただくという設定に笑う。
観光客には、2倍の宿泊料を払ってくれるお金持ち、1部屋に2人泊まってくれる恋人、プールがあると追加で払ってくれる水泳客など、いろんなタイプがいる。空き部屋と設備の投資状況を見て、できるだけ安い額で競り落したい。
ほかのホテルを見て競り値をつけるのは重要だ。「あのホテルは満室だから、今回は降りるな」「水泳客が多いから、プールがあるあのホテルは安値を付けてくるかな」相手の入札を読んで、設備を安く手に入れたり、観光客を高く泊めたりできれば愉快だ。満室のホテルが多いと宿泊料が上がるのがよくできていると思う。
ゲーム中に2ラウンド、観光シーズンで観光客が2倍になる。その前に設備を整えて、部屋を空けておくのがポイントだと思ったが、裏をかいて、その直後の満室状況で好き放題の宿泊料をつけるのも手だ。そんな心理戦も楽しい。
ぽちょむきんすたーさんが着実に利益を積み上げて1位。くさのまさんは、最初に高額を付けたエキストラルームが今ひとつ稼働せず元を取れなかった。私はスイートルームの回転を早くしようとする余り、ほかの部屋をないがしろにしてしまった。
設備と観光客のどちらを取るかというジレンマ、観光客が帰って部屋が空くタイミングの先読み、お互いのホテルの状況を見て足元を見た金額を付ける心理戦。「早く帰れー」などとホテルにあるまじきことをつぶやく背徳も手伝って、長く遊びたいゲームである。
Hotel Samoa
K.A.オストビー/ホワイトゴブリン―アークライト(2011年)
3〜6人用/10歳以上/45分
Amazon.co.jp:ホテルサモア 日本語版