盗まれた絵画はどれ?『絵画泥棒』日本語版、1月28日発売
『あやつり人形』のフェデュッティがデザインし、イーグル・グリフォンゲームズ(アメリカ)から2020年に発売された。美術館から絵画を盗み出してオークションにかけようとする泥棒と、泥棒が狙う絵画を見破って盗難を防ぐ探偵が攻防を繰り広げる記憶ゲーム。
毎ラウンド交替で1人のプレイヤーが泥棒役、他の全員が探偵役となる。名画カード24枚を場に並べ、探偵役のプレイヤーは砂時計が落ちるまでにじっくり観察する。砂時計が終わったら探偵役のプレイヤーは目を閉じ、泥棒役はその中から1~3枚を選んで、残りを捨て札にし、新たにカードを加えて8枚を並べる。探偵役はこの8枚の中から、盗まれた(先ほどの24枚の中にあった)カードを見事当てられれば得点、外れれば泥棒の得点になる。全員が泥棒役をしたらゲーム終了で、合計得点で勝敗を決める。
基本ゲームに加え6種類のバリアントルールを収録。名画カード200枚は実在する名画を使っており、美術館の雰囲気を作り出す。
内容物:絵画カード 200枚、目録 1冊、数字トークン 12枚、得点計算用紙 1冊、砂時計 1台
ゲーミフィケーション
(月報司法書士2023年1月号掲載)
ワークショップの良し悪し
最近、ワークショップ形式の研修会に参加する機会が多い。ワークショップとは体験型講座のことで、テーマや目的に応じてさまざまなものがあるが、一般的なのはKJ法と呼ばれるものだ。各自、テーマについて思いついたことをどんどん付箋に書いて大判用紙に貼り、グループ化して関連するものを矢印でつなげる。
「ラーニングピラミッド」といって、ただ話を聴いただけでは5%しか記憶に残らないが、ビデオやパワーポイントなどの視聴覚体験を加えれば20%、グループディスカッションをすれば50%と上がる。講演会を開いても右の耳から左の耳、家に帰る頃にはほとんど忘れているのでは虚しい。ワークショップのメリットは、グループディスカッションによる定着率向上にある。筆者が通常の講演でもできるだけ「参加者がお互いに話し合う時間」をもつようにしているのはそのためである。
しかし残念なワークショップも少なくない。結局一部の参加者しか意見を書いていなかったり、非現実的な意見や当たり前すぎる意見ばかりだったり、どんな気付きがあったかを共有できなかったりすると徒労感しか残らない。参加者全員の目的意識づけと、「ファシリテーター」と呼ばれる進行・案内役のスキルの両方が必要になるだろう。
ゲームで積極的な参加を
そのような漫然となりがちなワークショップに対し、「ルールを守って勝敗を競う」というゲーム形式で積極的な参加を促す研修がある。いわゆる「ゲーミフィケーション」(ゲーム化)というもので、研修に限らず、教育・組織運営・研究などさまざまな分野で行われている。コンピュータゲームの用語ではあるが、広義では古くから行われてきた。例えばインドから出発して地獄から天界を行き来しながら仏の世界を目指すすごろく『浄土双六』は、江戸時代に仏教の世界観を庶民に広める役割を果たしている。
筆者の実践例では、『新・助け合い体験ゲーム』(公益財団法人さわやか福祉財団)を公民館関係者による地域づくりワークショップで実施したことがある。「薬の受け取り」「子どもの一時預かり」「認知症者への見守り」といったカードを机に並べ、1枚ずつ取ってグループ内の誰かに頼み、引き受けてくれる人がいたら伏せて、一番多く伏せられたチームを勝利とした。実際に頼むという行為を通して、人口が減少し高齢化が進む将来をシミュレーションし「共助」の意義が確認できたと思う。一回では引き受けてもらえないことも、ほかの人に頼んだり、同じ人にもう一度頼み込んだりと交渉の余地もあって、会話も盛り上がった。
また、高齢者の研修で『もしバナゲーム』(iACP)を遊んでもらったことがある。「家で最期を迎える」「家族の負担にならない」などのカードがあり、重病や死の間際に大事だと思うことを選んで語り合う(勝者は最も印象深い話をした人)。嫁姑の苦労話や、配偶者を看取った話などが出てきて、笑いと涙の印象深い研修となった。僧侶が紹介したからかもしれないが、日常生活ではタブー視されている死であっても、ゲームを介すると抵抗なく話し合える。
多種多様な研修向けボードゲーム
2011年の東日本大震災の後には、防災意識を高めるために各自治体でボードゲーム研修が行われるようになった。特に、災害時の難しい選択を皆で考えるゲーム『クロスロード』(チームクロスロード)と、避難所の運営を模擬体験するゲーム『HUG』(静岡県地震防災センター)は、各地の実情に応じた地域版も作られ、当事者意識を高める効果を上げている。ほかにも、SDGs、環境問題、地域おこし、福祉、健康などさまざまな分野で、国やNPOなどがたくさんの研修向けボードゲームを制作し、販売したりインターネットで無料公開したりしている。現在も入手できるものを挙げれば次のようなものがある。
・防災カードゲーム『このつぎなにがおきるかな?』(国土交通省)
・防災・減災カードゲーム『ポケドボ』(土木学会)
・SDGsボードゲーム『ゲット・ザ・ポイント』(すなばコーポレーション)
・水環境を学ぶ「めぐるめぐみ」(Carrying Water Project)
・若者の政治参加を促すゲーム「セレクション」(LODU)
・地域学習「地域王」(愛宕商事)
・憲法教育「憲法ボードゲーム」(明日の自由を守る若手弁護士の会)
・病態把握能力向上ゲーム「Qカード」(滋賀湖南広域消防局)
・性教育「ブレイクすごろく」(ソウレッジ)
・LGBT教育「LGBTカード」(テラコヤキッズ)
・仏教「釈尊絵伝すごろく〜煩悩〜 / 復刻版浄土双六」(仏教伝道協会)
・怒りのツボ当てカードゲーム「アンガーマネージメントゲーム」(日本アンガーマネジメント協会)
学びの中のゲーム、ゲームの中の学び
こういったボードゲームは学ぶことが目的であるため、ゲーム自体の楽しさは二の次になっていることは否めない。研修だからただ楽しんで終わってはいけないのだろうが、学ぶことを意識しすぎず、楽しんだ後に結果として学びがあったほうが、継続して取り組みやすいのではないだろうか。ボードゲームを知育玩具として子どもにプレゼントすると、子どもはその意図を見抜いて遊んでくれないように、ボードゲームは第一に娯楽だからこそ遊んでみたくなるものだ。
同人ゲームとして制作された『持続可能な開発目標に関するカードゲーム』(芸無工房)は、各プレイヤーに配られた開発目標に当てはまるようにテーマトークをして、誰にも配られなかった開発目標が何だったかを当てる。他の開発目標と混同させないように話すのはゲームとしての楽しみがあるが、SDGsは「安全な水とトイレを世界中に」と「海の豊かさを守ろう」は水つながり、「産業と技術革新の基盤をつくろう」と「つくる責任つかう責任」は工業つながりというように、内容が相互に重複していることに気づけたのは収穫だった。
参加者に楽しんでもらうことがゲーミフィケーションの本質だとすれば、別に用具を用意しなくても、アイスブレイクやクイズなど、ちょっとした工夫と遊び心で研修を楽しくすることができると思う。