東京うんこダイバー(Tokyo Poo Diver)
一寸先は闇
マンホールから下水道を通ってゴミを見つけ、ウンコを集めるプッシュ・ユア・ラック系のタイルめくりゲーム。『リトルトーキョー』『ラーメンシェフ』『指詰め』と日本テーマのボードゲームを発表しているヘルトベルクス社(ドイツ)から2022年に発表された。マンホールの蓋には「バーカ・なんでやねん!・アカん・ヤバい・アホ・ハゲ」と書いてある。
8×8枚にマンホールタイルを並べてスタート(バリアントルールではドーナツ型、ハート型、ドクロ型などいろいろな並べ方がある)。手番には、好きなタイルをめぐって潜水を開始する。
めくったタイルがゴミだったら、ウンココマをもらってそこでやめてもいいし、そこから縦横斜めの一方向にタイルをめくっていっても良い。ゴミが出ている限りめくり続けることができ、得点は増えていく。
しかし中にはハズレ(X)とおやすみ(zZz)があり、ハズレが出たらバーストで手番終了。おやすみも手番終了となるがうんこはもらえる(最初にめくってしまったらもう1手番)。
ハズレをめくったら、まだめくられていないタイルを1枚こっそり見ることができる。この時どこを見るかが重要で、次に自分の番が回ってくるときに残っていそうなところをめくる「先見の明」が試される。
2手番目以降は、すでにめくられたゴミタイルが、今めくったタイルから放射線状(8方向)に連続していればその分だけ得点になる。このため、すでにめくられたタイルの近くをめくることになり、得点が増えていく。タイルがすべてめくられるか、うんこコマのストックがなくなったらゲーム終了で、一番多いプレイヤーの勝利。
東京ならでは(?)の味わい深いゴミに囲まれつつ、ドキドキしながら奥へ奥へと進んでいくところに潜水している感じが出ている。
Die Kackentaucher von Tokyo / Tokyo Poo Diver
ゲームデザイン:T.プレヒト/イラスト:C.ボグレ
ヘルトベルクスゲームズ(2022年)
2~4人用/12歳以上/20~30分
ボードゲームにおける「自己の無意識化」
ボードゲームカフェでは全く知らない人と相席することがあるが、「ゆこる」では自己紹介について、したかったらしてもよいが、相手に強制させるような流れを作ることは禁止しているという。「プライベートは必要ない空間であってほしいし、一回きりの、ここでのゲーム体験っていう、余計なしがらみを全部捨ててゲームを楽しめるように」ときむち店長。その結果、お互い知らないプレイヤー同士は「緑のお姉さん」(プレイヤーカラー)や、ハンドルネームで呼び合う習慣ができている(「ゆこる」に限らず、ボードゲームコミュニティーでは一般的なことだと思う)。
このような状況を筆者は「自己の無意識化」と名付け、儀礼行為の「はじめの役割からの分離」「通常の状態からの離脱」「リミナリティ(境界性)」「コミュタス(未分化の組織)」と関連付けている。日常の序列や身分といった世俗的な意識を離れることで、強い仲間意識と平等主義が展開される。ボードゲームは、テーブルに付いたすべての「プレイヤー」を同じルールのもとで「平等」な存在にする。相手の人となりがわからないのは少々寂しいが、「自己の無意識化」はボードゲームの魅力の源泉になっていることに気付かされる。
平等であるといっても、スポーツがそうであるように、熟練者と初心者は経験や実力に差がある。しかしボードゲームにおいては、その差が強調されることはなく、むしろ差を埋めるように熟練者がはたらきかける。初心者が不利にならず、一緒に楽しめるようにするはたらきかけは、やがて新たな参入者に対するふるまいとして引き継がれ、フラットな場を維持するために機能しながら循環しているという。
「ボードゲームが得意な人たちが入り浸るお店というより、もっと間口を広く、初めての人でもふらっと寄れて自然に楽しめる雰囲気にしたい」というきむち店長の思いは、ボードゲームカフェにかぎらず、多くのボードゲーム愛好者が共感するところだろう。しかしこのフラットな状態は、ただハンドルネームで呼び合うだけではなく、経験者がさりげなく働きかけることで実現される。
遊ぶゲームの提案、ルール説明、ゲーム中のルール確認、盛り上げ役など、経験者に期待されることは多い。熱意が余って押し付けがましかったり、マウンティングと取られたりするような言動を恐れて消極的になってしまうこともあるが、それでは経験や実力の差が埋まらないままである。「自己を無意識化して日常生活のカタルシスにつなげる」というボードゲームの魅力を初めての方でも感じられるよう、うまくリードしてフラットな状態を醸成していきたいものである。