ゲームの値上げ

ドイツゲームは日本では輸入品です。ヨーロッパ→日本という遠距離の輸入コストが高くつくため、定価の1.5倍~2倍の価格になります。そのため日本人には、ゲームを厳選した上で勇気をもって財布からお札を出すことが要求されるわけですが、そのもとになるドイツでの定価が上がっているというレポートがドイツのサイトに掲載されました。

なに!と思われる方も多いのではないでしょうか。当サイトでは、ここにその内容を紹介します。ドイツの最新ゲーム事情を知るひとつの手がかりになるでしょう。

2002年のエッセンでは、各メーカー軒並みゲームの価格を上げました。この結果、大きい箱のゲームで30~35マルクというのが標準になりました。2~3年前までは50マルク(≒25ユーロ)というのが標準でしたので、だいたい2割増しになったということです。しかし売上は2割増しになるどころか、前年比で1割減になってしまいました。なぜこんな値上げをしてしまったのでしょうか?

この件でゲーム会社・ショップ・デザイナーにアンケートをとったところ、さまざまな苦労が垣間見えてきました。

原因として真っ先に予想されるのは、物価上昇(もの一般に値上げしている)とユーロ切り替えによる便乗ですが、これらについてはあまり関係がないという答えが多かったそうです。あえて言えば、紙代が大幅に値上がりして、箱の制作費が25%も上がったのが製作コストに響いているくらいです。

メーカーが多く主張しているのは、損失補てんです。ドイツのメーカーは長年、50マルクを消費者が手に取る心理的な限界としてきました。「普通に計算して53マルクかかるはずのゲームでも、定価を49マルクにしてしまう(グルーバー)」というわけです。これが積み重なった上に、製作コストが上がってきて、ついに我慢しきれなくなったのが、今回の値上げだといいます。日本ならば何とか4,980円(カタン、マーメイドレインの定価)にするといったところでしょうか。現在は30ユーロあたりがボーダーになっていますが、それでも、コスト上昇の中でこれを超えないようにするのは至難になってきています。

一方、1タイトルあたりの生産数が減少したというのも原因として挙げられています。昔と比べて1つのゲームの寿命が短くなり、ロングセラーもなくなってきました。メーカーは在庫を抱えないように、初版は数千単位で作り始めています。これが1コあたりの値段を上げているわけです。『ニューエントデッカー』が『エントデッカー』よりもコンポーネントがよくなったのに、価格があまり変わらないことや、『カルカソンヌ2』が安価であるのは、ひとえに生産数によるものです。「『カタンの開拓者宇宙篇』が89マルクに抑えられたのは初版で10万セット作ったからで,もし1万セットだったら149マルクはかかっただろう(グルーバー)」

以上が値上げの原因と考えられているものです。

一方、取り巻く市場は厳しくなっています。オンラインショップの競争激化で次々と価格破壊が始まり、消耗戦が続いています。またデパート・大型店の在庫一掃処分で大幅値下げがあちこちで行われます。こうした結果、一般消費者は定価の価格設定が高いのではないかという疑いをもつようになってきました。「ゲームの値段が突然安くなると、メーカーが大もうけしようと設定した利益分を差し引いたのだと思われることが多いかもしれないが、それが正しくないことを消費者は知らない(グルーバー)」

また値上げしたといっても、ドイツ以外のメーカーや小さいメーカーは生産や流通のコストがさらに割高になりがちで、大手の水準についていくのはたいへんです。エッセンで日本版カタンを50ユーロで販売していたカプコンはさておき、「メッセはうまくいったけど、たいへんだったよ!ゲームはドイツで安くなりすぎた。Don & Coは今の価格についていけない(ブルム)」というように、財布のひもが堅い消費者の心をつかむのはたいへんなことです。

このように値段は上がっているのに、製作の側では価格帯の低さを嘆く声が多いのはどうしてでしょうか? メーカーは損失を増やさずに安価に踏みとどまることができるのでしょうか、それとも、これからも値上げしなければならないのでしょうか?

消費者が安いゲームを買い続ければ、メーカーは萎縮してラインナップが手堅くなり、アイテム数も絞られます。あるいは、コンポーネントのコストを削減するために伝統的な木製コマをどんどんなくしていくこともあるでしょう。これはすなわち、種類の多様性コンポーネントの美しさを看板にしてきたドイツゲーム文化の衰退にほかなりません。

世界的な不況の中、消費者として値上げを歓迎する人は誰もいないでしょう。しかし、消費者が支払うゲーム代は将来への投資という考えにたてば、決して高くはないのです。

―このことはこのデフレ時代、日本でもいろいろなことに当てはまりそうです。価格破壊は生産拠点を海外に追いやり、国内産業をどん底まで追い詰めています。その中で失われつつある日本の文化や貧富差の拡大を危惧するとき、ただ安ければよいのではなく、適正価格というものが大事だということに気づくことでしょう。

「オレは、これにならいくら出すだろうか?」モノを見る目を、みがきたいものです。

参考:Michael Weber, Sind Spiele zu teuer? – Umstrittene Preispolitik unter der Lupe (Reich der Spiele)