年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞の関係

ドイツゲームの発展を支えてきた要因のひとつに、優秀なゲームに賞を与えたということがあります。いくつかの賞がありますが、その中でも年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres、ゲーム・オブ・ザ・イヤー)とドイツゲーム賞(Deutscher Spielpreis)は特に多くのゲーマーが注目し、影響力を持っています。

年間ゲーム大賞(SdJ)は、1979年から始まった経験豊富なゲーム評論家から組織される審査委員会が決定する賞です。毎年秋から翌年の春までに発表されたゲームから、10作品程度をノミネートし、6月ころに大賞を決定します。信頼ある賞で、大賞を受賞したゲームは売上が10倍以上にもなると言われています。美術ゲーム賞、アクションゲーム賞、子供ゲーム賞などの特別賞もあります。

一方ドイツゲーム賞(DSP)は、1990年から始まったファン投票によって決められる賞です。ドイツ国内のゲームサークル、ゲームショップ、ゲーム雑誌、インターネットから集められた投票を、重複投票のないように公正に処理し、順位をつけます。投票が多いということはそれだけドイツ国内で頻繁にプレイされているということでもあり、面白さの基準として信用できるものです。金の羽根賞、子供ゲーム賞などの特別賞もあります。

上記のような性格から、年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞の受賞傾向にはいくらかの違いが見られます。両方とも受賞しているからには面白いゲームなのですが、年間ゲーム大賞はオリジナリティー(他のゲームにはない斬新さ)やシステムの完成度など理知的に高く評価されるのに対し、ドイツゲーム賞は楽しさや魅力など心証面で評価されるようです。さらに21世紀に入ってからは年間ゲーム大賞が一般・子ども向け路線を強く打ち出した一方、ドイツゲーム賞はフリークの意見が強く反映されるようになりました。

これまで年間ゲーム大賞を獲得したゲームは、ドイツゲーム賞でも高く評価されていますが、その中でもブラフ(1993)、ミシシッピ・クイーン(1997)、乗車券(2004)は3位内入賞を果たすことができず(前二者は4位どまり、乗車券は6位の最低記録)、アイデアがよくても人気を博するとは限らないことを表しています。

その逆に年間ゲーム賞ではノミネート(2004年以降は推薦リスト含む)も特別賞も受賞しなかったのに、ドイツゲーム賞で3位内に入ったというゲームもあります。
アラカルト(1990年2位) 、こんなものどんなもの?(1990年3位)、さまよえるオランダ人(1992年1位)、ヴェルニサージュ(1993年3位)、カポネ(1994年2位)、12星座ゲーム(1995年3位)、エントデッカー(1996年2位)、原始スープ(1998年2位)、ラー(1999年2位)、フィレンツェの匠(2000年3位)、メディナ(2001年2位)、ゴア(2004年3位)
これらのゲームはアイデアがよくなかったということではなく、年間ゲーム大賞の審査員がその年のトレンドをやや読み違えたということでしょう。

年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞1位を両方受賞したという快挙を成し遂げたゲームはこれまでに5作品あります。
貴族の務め(1990)、カタン(1995)、エル・グランデ(1996)、ティカル(1998)、カルカソンヌ(2001)
これらのゲームは、殿堂入リ級の大傑作と言うことができます。

さて、年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞の関係を探るために、両方の賞(大賞、特別賞、ノミネート全て含む)を受賞したゲームを数え、それが全受賞数に対してどれだけ占めているかを調べてみました。この占有率は、高いほどもう一方の賞に対する親和性があることを示すことになります。言い換えれば、独創性がないということにもなります。仮に100%になったとしたら、その賞の存在意義は限りなく薄まるでしょう。

平均すると、どちらの賞でも約半数の作品が重複して受賞していることになります。しかし、年代順に追うと、当初は相互に独立性の高かったのが、次第に類似性が高まったきたことがわかります。かつては「年間ゲーム大賞はこういうタイプで、ドイツゲーム賞はこういうタイプ」と住み分けができていたようですが、次第に同じような作品が受賞するようになってきました。これはなぜでしょうか。

理由としてゲームの二極分化が進んできたことがあるのではないかと思います。ここ10年のドイツゲームの発展はすさまじく、巨大な市場を形成すると共に、メジャー/マイナーなゲームデザイナー、ゲームメーカーという地位が固まってきました。メジャーなメーカーはメジャーなゲームデザイナーを擁して評判の高いゲームを作ります。そして評判の高いゲームはしばしば無批判に受け入れられ、やがては両方の賞を獲得するに到ります。こうなるのはもちろん、今のドイツゲーム界のレベルが全体として高いからですが、その中から抜きん出るのは、著名度によるところが大きいようです。

2006年まで重複して受賞した105作品のうち、クニツィア(10)、クラマー(9)、ムーン(7)、トイバー(6)と、この4人だけで3割になります。メーカー別ではさらに、ラベンスバーガー(アレア含む、15)、ハンス・イム・グリュック(14)、コスモス(11)、ゴルトジーバー(10)、アミーゴ(7)と、上位5社で5割を超える占有率です。

この中でドイツゲーム賞の方が特に、年間ゲーム大賞候補の中から選ぶという雰囲気になりつつあり、嗜好の多様性を示せない状態になりました(グラフ赤線)。1998年には原始スープ(2位)と海賊(10位)以外全て年間ゲーム大賞候補と重複してしまいました。しかし21世紀に入ってからは年間ゲーム大賞が一般向け路線を強く打ち出し、フリーク向けゲームをあまりノミネートしなくなったため、ドイツゲーム賞との乖離が始まっています。

メジャーなデザイナー、メジャーなメーカー頼みでは、カタンシリーズに象徴されるような二番煎じが続出してマンネリ感が免れません。「皆が面白いというから買う」ということもお金を無駄にしないためには大切ですが、自分だけのお気に入りゲームを探す努力もしてみましょう。また、受賞したゲームもどこがどういう風に面白いのか、あるいは面白くないのかをじっくりと考えてみましょう。

ゲームを消費するのではなく、ゲームを通して自分の創造性を磨くこと、それが一般ゲーマーにとっても大切なことでしょうし、今後の年間ゲーム大賞、ドイツゲーム賞を意義あるものにしていくことでもあるのです。

2つの賞の違い ドイツ年間ゲーム大賞 ドイツゲーム賞 原語 Spiel des Jahres(ゲーム・オブ・ザ・イヤー) Deutscher Spiele Preis(ドイツのゲーム賞) 開始年 1979年~ 1990年~(前身のゴールデン・ペッペルは1979年~) 主催 審査委員会
(協力:マールブルク・ゲームアーカイブ) フリードヘルム・メルツ社 選ぶ人 10名からなる審査委員会 ゲーム愛好者(約2,000名) 選考対象 原則として発売1年以内の新作 同右 選考方法 ノミネートから大賞を選出 一般投票で獲得ポイント順 発表時期 6月下旬、ベルリンの授賞式にて 9月中旬、インターネットにて(授賞式は10月、エッセンにて) 発表内容 ノミネート5点から大賞1点、子ども部門も同じ 1~10位まで、子ども部門1点、模範ルール賞1点 特別賞 美術、アクション、文学、歴史
ソリテア、パズル、家族協力、コンプレックス 模範ルール(毎年) 傾向 一般への普及のため、分かりやすいゲームを選ぶ 主としてフリークが投票するため、難易度の高いゲームが上位になる 2つの賞の重複(キッズゲームを除く) 年 SdJ DSP 重複 重複/SdJ 重複/DSP ―― SdJにおけるDSPと重複したタイトルの割合
―― DSPにおけるSdJと重複したタイトルの割合

[グラフの見方]
どちらの線も高いほどお互いに同じゲームを選んでいる傾向が強いことを示す。SdJが先に発表されるため、赤線が高いほどDSPがSdJに依存している=SdJ受賞作品の中から選んでいる傾向が強い(1998年を見よ)。またDSPはフリーク向けのゲームが選ばれるため、青線が高いほどSdJがフリーク向けのゲームを選んでいる傾向が強い(2001年以降、SdJがファミリー向け路線に転換したことがよく分かる)。