(長井法人会ワンポイント情報 令和7年8月号に掲載)
とある研修の話し方講座で、「気持ちの優先順位」で話すというところに引っかかった。言いたいけれど言っちゃいけない本音というものは誰しもあるものだし、良かれと思って言ったことが不快な思いをさせることも少なくない。
私自身、会議や懇親会の帰りの車の中で、自分の発言を思い返して「言わなきゃよかった……」と顔を赤くすることがよくある。自慢や悪口に聞こえたのではないか、言いたいことが伝わらなかったのではないか、つまらない与太話で退屈させたのではないか。
「三度考え直して、自分のため人のためになるということであれば発言せよ。もし、ためにならないときは、やめるがよい。このようなことは、一挙には難しい。心にかけて、段々と学んでいくことである」(正法眼蔵随聞記)
ためになるかどうかの判断も難しいところだが、実際の会話の中では、いちいち三度考え直してから発言する暇はない。そこで後で(帰り道や寝る前など)発言を振り返り、それを聞いた人の顔ぶれを思い出し、どう受け取られたかを想像して、反省点があれば次に生かすことにしている。とはいえ気にしすぎるのも考え物ものだと、自分でも思う。
世の中には、知り合いでもない飲食店の店員にタメ口をきいたり、機嫌の悪い顔を辺りに振りまいたり、ウケると思って卑猥な冗談や差別発言をしたりするしょうもないおじさんがいる。そんな傲慢なおじさんだと思われたくなくて、「人の振り見て我が振り直せ」を心がけているうちに、やけに丁寧で、腰が低くて、機嫌と調子ばかりいい人間になっていく。謙虚を通り越して卑屈になってしまい、自信も自己肯定感もなく、口を開けば「すみません」ばかりなんていうことも。それでは「過ぎたるは猶及ばざるが如し」である。
自分を出しすぎず、相手を立てすぎず、自分と相手の気持ちの優先順位にうまく折り合いをつけて話す手法を「アサーション(自他尊重の発話)」という。これについて次回、ご紹介したいと思う。