ちょっといい話(7)ワン・イシュー

(長井法人会ワンポイント情報 令和7年5月号に掲載)

小中学校の入学式で、校長が伝えたいことを3つ挙げるパターンによく出くわす。そのうち来賓まで3つずつ挙げ始めたら3人で合計9つ。だいたい内容はかぶるのでまとめると6つか7つぐらいになるが、大人でも覚えられないものを、新入生がそんなにたくさん覚えていられるだろうか。
校長になって初めて入学式に臨む友人に、「校長って3つ挙げがちだけど、1つだけのほうがいい」と伝えた。一言あいさつぐらいなら、自分でもワン・イシュー(話題を一つに絞ること)を心がけている。そうすることで話を短くできるだけでなく、内容を深堀りでき、聞く人の記憶により一層残りやすい。人が相手の話を集中して聞けるのは、大人でもせいぜい3分。興味のない話は1分で飽きる。それ以上は、はっきりいって忍耐力(あるいは聞いているふり)のトレーニングでしかない。
話題は1つだけだが、聞く人の興味を引く「つかみ」、なぜそれが大切なのかという「理由」、具体的にどういったことなのかという「例示」、有名人の「引用」などはあったほうがよい。例えば以前、中学校の入学式の祝辞でダイバーシティ(多様性)の大切さを話題にしたが、制服や校則の見直し(つかみ)から、「みんなちがってみんないい」では解決しない問題(理由)、考えの違う人との合意形成力と、自他双方への寛容性(例示)、内田樹氏の「これからの時代必要とされるのは、みんなと友だちになる能力ではなく、友だちでない人とも話ができる能力」(引用)まで言及して、中学生の理解を深めるよう努めた。
実は一言あいさつだけでなく、1時間ぐらいの講演でも同じことがいえる。長年、全国を巡回して法話をしてきたベテラン布教師さんは、「話が枝葉まで行っても、その都度、幹に帰ってくればよい」という。逆にいえば木の幹(伝えたいこと)は1つで、それをどのように膨らませていくかと考えると話しやすい。さまざまな会合や、従業員の前であいさつやスピーチをする方の参考になれば幸いである。

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