悪を見つめる彼岸

毎日暑いのでまだ夏のような気がしているうちに、蝉の声がいつの間にか鈴虫に代わり、もうお彼岸である。「暑さ寒さも彼岸まで」というが、涼しくなったらきっと暑い夏の日を恋しく思うのだろう。
お彼岸には自己研鑽として七日間、六波羅蜜という徳目を実践することになっている。布施=与えること、持戒=悪をなさないこと、忍辱=困難に耐え忍ぶこと、精進=努力すること、禅定=心を安定させること、智慧=執着を離れることである。
このうち「持戒」に関して、筆者は保護司として罪を犯した人(執行猶予中や仮釈放など)の更生を支援しているが、対象者と話していると、自分との間に本質的な違いはないと感じる。自分がこれまで悪事をはたらかずに生きてこれたのは、意志の力よりも周囲の人々や環境のおかげであって、たまたま運が良かっただけに過ぎない。
ボードゲームには嘘をついて相手を騙すブラフゲームというジャンルがある。トランプの「ダウト」が有名だが、他にも「人狼ゲーム」「ごきぶりポーカー」「ライアーズダイス」などたくさん発売されている。言葉や態度から嘘を見破られないようにするコツは、「自分自身、本当のことだと信じ込む」ことである。そうすると嘘は自分にとって嘘でなくなり、もはや良心の呵責もない。このコツは悪事を追及された政治家の常套手段ではないだろうか。意図的に忘れてしまえば「記憶にございません」は真実になる。
ここからも、嘘をつかないで日常生活を送ることができるのは、意志の力よりも周囲の環境のおかげだといえる。そうだとしたら、将来環境が変われば自分も嘘をつくようになるかもしれず、「嘘つきは泥棒の始まり」で悪の道に入りかねない。自分もそうなる可能性があると思えば、平気で嘘をついて人を騙すような環境に生きてきた(生きて来ざるを得なかった)人たちを一方的に蔑むことはできない。
暑くも寒くもない穏やかなこの彼岸に、自分の心の中にも気付かないうちに潜んでいる悪を見つめ直し、これまで自分を守ってきてくれた環境に感謝し、できれば今度は誰かにとって支えになっていくことを誓いたい。

(河北新報「微風旋風」9月22日)

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