ちょっといい話(5)動かそうとせずに人を動かす方法

(長井法人会ワンポイント情報 令和7年3月号に掲載)

良寛さんの伝記によると、たびたび泊まりに行く庄屋の友人がいたそうだが、そこではお経を読んだり説教したりすることもなく、ただ雑談しているだけで家の者みなが仲良くなり、しかも帰ってからも数日はよい雰囲気が続いたという。「朱に交われば赤くなる」ということだが、他人に物事を伝える大事なヒントがありそうだ。
まず人に何かをさせようと考えず、自らがして見せることである。勉強しようと思っていたところに親から「早く勉強しなさい」と言われるとやる気が失せるように、人は命令されたり説教されたりすると抵抗を感じる(心理的リアクタンス)。「やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、ほめてやらねば人は動かじ」(山本五十六)というように、ただ言うだけではなく、まずは自らが見本を示し、相手が自ら考え、動くように支援していく。回りくどい方法に見えて、そのほうが効果は長く続く。
次はコミュニケーション。自分は見本を示しているつもりなのに、相手が動いてくれなくてイライラすることもあるかもしれない。そういうとき、相手の能力不足とあきらめるのは簡単だが、その前にコミュニケーションが不足している可能性も考えてみてはどうだろうか。用があるときしか話をしないのではなく、普段からの雑談をどれくらいしているかがものをいう。雑談は話している中身よりも同じ場所と時間をシェアしている感覚のほうが大事で、お茶やお菓子があればなおよい。一緒にいる時間が長くなるだけで警戒感が薄れ、親近感や好意を抱くようになる(単純接触効果)。
最後は信頼関係。良寛さんのような人格者でなくても、一定の信頼関係を築くことはできる。人間性によって人は動いたり動かなかったりするものだ。誰に対しても平たく柔和に接し、にこやかであること。以前のコラムで「他人の話は参考にならない」ということを書いたが、親しみを持ってもらえるよう、ちょっとだけ自分の話をしてみるのも一つの方法である(自己開示)。

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