知能と人間の進歩-遺伝子に秘められた人類の可能性-

著・ジェームズ・フリン/新曜社、2016年

クリッツァー『21世紀の道徳』で言及されていた「道徳的フリン効果」(人類は20世紀になってから抽象的・論理的思考能力が飛躍的に進歩し、人種・性別・性的指向などが自分と違う立場の人にも想像をはたらかせ、黄金律を適切に実践できるようになった)の原典ということで読んでみた。怪しさプンプンのタイトルとは裏腹に、実証的な研究に基づいた内容(調査方法や方法論がメイン)。

奴隷制度、決闘、闘牛、犯罪者への残酷な刑罰など、一時代前には当然視されていたものが許容されなくなっている。これは人類が他人の立場に立って考えることができるようになってきたことを示す。分類や仮説的推論、抽象的事象についての論理的思考の影響だが、そうできるようになったのはそれほど昔ではない。紀元前、死因の15%は他者の暴力だったそうだが、現在は0.001~0.005%に過ぎない。

マッツァリーノ『「昔はよかった」病』のように、お年寄りや宗教者はとかく現代をネガティブに捉えがちだが、現代は昔と比べて最も優れた時代であり、賢く優しくなった若い世代がこれからもさらに良くしていってくれるのだ(賢く優しくなるのと少子化は関連がありそう)。

著者は人類がさらなる進歩をし続けるために「三戒」を挙げている。①環境を保全せよ、②社会の底辺で生きる人々の向上心を見捨てるな、③隣人の土地を欲しがるな。ロシアのウクライナ侵攻という現代にあるまじき事態に際しても、人類が関心を持ち、戦火に苦しむ人への想像力をはたらかせ続けることで、終結につながっていくと信じたい。

男性の攻撃的衝動の「飼い慣らし」や、ある集団の能力の平均値が上昇するとそのことが新しい刺激となって個々人の能力を高め、さらなる技能の向上を可能にする「社会的増幅器」など、日常生活の中で照らし合わせて腑に落ちた。いじめ・体罰・DV・パワハラは言葉によるものですらもはや許されず、スポーツのプレイは年々進化を遂げている。バレーボールの動画を見てから練習に行くと上達するような気がする(気のせい?)。

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