タヒル家








左からジミー、お母さん、お父さん、タヒル、スミル、タンヴィーラ
ローン家

 タヒルさんの家は、ちょっとありえない家である。
 お父さんは元警察署長。定年退職後は処罰した犯罪者たちの報復に遭わないよう専ら家で過ごしているが、その眼光は衰えない。第一印象は恐いが話してみるととても柔軟な思考の持ち主であることが分かる。お母さんはパンジャーブ州出身で、心配りの細やかな人だ。ここにタヒルさんを長男として三男一女。
 長男のタヒルさん(29)はカーディーラーで、目抜き通りに大きい店を構えている。子どもの頃から車が好きで、会社勤めを経て開業してから6年、顧客の信頼は厚くリピーターが多い。長男らしくどっしりと構えていて、めったに笑わないが情に厚い。シュリナガルとカシミールをこよなく愛し、仕事を休んで案内してくれている。
 自動車メーカーはホンダ、スズキ、三菱、またカーステレオではケンウッド、ソニー、パイオニアなど日本ブランドが目立つ。ここカシミールには工場がなく、車は全てデリーから運んでこなくてはならない。途中の山道はトレーラーが通れないので10台の車を運ぶときには10人のドライバーが必要。そこで月に2回はデリーに飛び、車の買い付けとドライバーの手配をしているという。
 長女のタンヴィーラさん(26)はビハール州にある歯科大学の修士課程に在籍中。すでに歯科医の資格は持っているが更に研鑽を重ねてアメリカに留学するつもりらしい。夏休みで帰省しており、お母さんやお手伝いさんを手伝っている。礼拝は家族で一番、いつもきっちりと行う(メッカの方角を向いて礼拝するのでテレビや台所を向いているのがちょっと面白いけれど)。眼光の鋭さと顔つきの優しさは両親ゆずりだ。
 次男のスミルさん(23)は警察官。法律の知識に詳しく、警察学校を首席で卒業したエリート。23才という若さで警部であり、4人のボディガードが付いている。子どもの頃から正義感が強く、曲がったことには手を貸さなかったという。1億円の裏金を暴いたとき、賄賂に300万円を提示されたが、それを蹴った話はお父さんから聞いた。現在は国家管理職試験のために準備中。しかしそういう肩書きが似合わないほど気さくで、家族への気配りは欠かさない。特にお兄さんのタヒルさんには本当によく尽くす。まもなく試験対策セミナーでデリーへ行き、数ヶ月戻ってこないという。
 三男のジミーさん(21)は何と映画俳優。やたら映画に詳しいと思ったら、そういうことだった。子どもの頃から映画が好きで、バンガロール、ムンバイと仕事を探し、モデルを経て現在に至る。これまで2本の映画に出演していて、これからの活躍が期待される。現在『7人のテロリスト』(どこかで聞いたような)という主演作品を撮影中。普段はムンバイに住んでいるが、気候が悪いためよくシュリナガルに帰ってきて、お兄さんの店を手伝っている。甘いマスクと明るい性格で、今の仕事は適職だと思う。







ローン家は夏涼しく冬暖かいレンガの家。
ローン家

 このほかにお手伝いさんのアルタープ(16)。幼い頃に両親を病気で亡くして身寄りがなく、学校にも行けなくなっていたところを、3ヶ月ほど前にローン家に雇われた。雇うといっても半ば養子のようなもので、家族が勉強を教えて学業を再開させようとしている。気が利かないことが多いが、類まれなる素直な性格で家族のみんなから愛されている。
 そんな家族が住んでいる家は、市の中央にある4階建ての豪邸。居室には美しいじゅうたんが敷かれており、使っていない部屋もいくつかある。私はその中の居間に住まわせてもらっている。じゅうたんを2枚敷いた美しい部屋だ。
 今日は今日とてカシミール大学へ。昨日はスミルさんと代わって今日は弟のジミーさんが運転手。広くて美しい大学で、プネーからここに移りたいくらいだ。学食でマンゴージュースを飲みながらポテトチップをかじる。その後イスラム寺院やムガル帝国時代の庭園を案内してもらい、ライチジュースなどを飲んでのんびり過ごした。
 夕食はイスラム記念日ということでワズワンという特別なマトン料理。本当は20品目以上あるというが、今回は6品目だけでお腹いっぱい。こちらに来てからご馳走攻勢が続き、確実に太っている気がする。
今日の観光スポット
ジャミアマスジッドジャミア・マスジッド
1385年に建てられた半木造の巨大モスク。3度の消失を経て、現在のものはムガル帝国第6代皇帝アウラングゼーブによるもの。どこから取ってきたのかというほど太く長い松の柱が300本使われている。モスクが集まる近くの交差点はかつてテロの標的になっていて、何度も爆発事件が起こったが現在は平和。
メッカ側の門ではたくさんの人が集まって昼の礼拝が行われていた。

マクドゥーム廟マクドゥーム廟
シュリナガル中央、コヒ・マハーン山の中腹にあり、カシミールでイスラム教を広めた聖者の棺が安置されている。棺の周りの部屋には男性しか入ることができず、女性は窓から拝むことになっている。
窓際にいる老人から祝福を祈ってもらい、お菓子をもらう。

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