本尊上供回向にある「四恩総て報じ」の四恩にはいろいろあるようで、どれを取るか改めて考えてみた。
仏教辞典では次の5種が挙げられている。
A.①父母 ②衆生 ③国王 ④三宝(『心地観経』『無門関』『婆羅門碑』『日本霊異記』『開目鈔』)
B.①天地 ②師 ③国王 ④父母(『盲安杖』『反故集』)
C.①天地 ②国王 ③父母 ④衆生(『平家物語』)
D.①国王 ②父母 ③師友 ④檀越(『釈氏要覧』)
E.①母 ②父 ③如来 ④説法師(『正法念処経』)
E説以外は国王が入っており、「国王恩が、とかく皇国史観に立つものとして批判も存することから、仏教徒としては、これをとることも十分考えられよう(櫻井秀雄『曹洞宗回向文講義』)。」皇国史観はなくとも、現代日本においては、国王恩は天皇にしても総理大臣にしてもしっくりこない。
一方、「上分三宝、中分四恩、下及六道」という言葉があり、四恩の中に三宝を含めると重複してしまう。三宝には如来(仏)と師友・説法師(僧)も入るのでこれも重複すると考えると、残るのは、天地、父母、衆生、檀越。さらに檀越に恩義があるのは出家者のみの話なので、檀信徒の四恩として残るのは、天地、母、父、衆生ということになる。
消去法(と『正法念処経』の順序)によって当面、「天地の恩、母の恩、父の恩、衆生の恩に報い」と解釈したいと思う。