十六善神

大般若会では、中央正面に「十六善神図」という掛け軸をかけ、読経の前に礼拝する。この十六善神とは仏法を守護する16柱の神様たちで、掛け軸では鎧を着て武器を持つ。名前はサンスクリット語で、見たこともないような難しい漢字で音写されている。「インダラ神王」はインドラ(帝釈天)で、「クベーロ神王」はクベーラ(毘沙門天)であろうことは予想していたが、このたび説明を頼まれたので改めて調べてみた。

十六善神といってもいろんな組み合わせがあるようだが、大般若会で礼拝されるのは『陀羅尼集経』第三に説かれる「十六大夜叉将」。夜叉とは人を食べる恐ろしい鬼神だが、お釈迦様に帰依して仏法を守護するようになり、天龍八部衆のひとつに数えられている。しかしひとつひとつ見ていくと、全部が夜叉ではない。

①達哩底囉瑟吒/提頭頼吒神王(ダイズラダじんのう) धृतराष्ट्र/Dhrtarāshtra/ドリタラーシュトラ
持国天。四天王、東方守護

②禁毘嚕神王(キンビロじんのう) कुम्भीर/Kumbhīra/クンビーラ
金毘羅。ガンジス川の水運の神、薬師如来十二神将の筆頭。鰐、日本では蛇型。十二神将

③嚩日嚕神王(バサロじんのう) वज्र/Vajra/ヴァジュラ
金剛力士、仁王、執金剛神。金剛杵を執って仏法を守護する。十二神将

④迦尾嚕神王(カビロじんのう) कपिल/Kapila/カピラ?
聖仙?

⑤彌覩嚕神王(ミャキロじんのう) मिहिर/Mihira/ミヒラ
太陽神? 十二神将

⑥哆怒毘(ドンドビじんのう)神王 दण्डवत्/Dandavat/ダンダヴァット?
大軍勢を持つ者?

⑦阿儞嚕神王(アニロじんのう) अनिल/Anila/アニラ
風神(ヴァーユ)。原人プルシャの生気から生まれ、帝釈天と共に空界を占める。十二神将

⑧娑儞嚕神王(シャニロじんのう) शाण्डिल्य/Śāndilya/シャーンディリヤ
聖仙? 十二神将

⑨印捺嚕神王(インダロじんのう) इन्द्र/Indra/インドラ
帝釈天。金剛杵をもち雷を操る神々の王。十二神将

⑩波夷嚕神王(バイロじんのう) पज्र/Pajra/パジュラ
月の神? 十二神将

⑪摩尾嚕神王(マクロじんのう) महोरग/Mahoraga/マホーラガ
摩睺羅伽。帝釈天配下の大うわばみ。天龍八部衆、十二神将

⑫嬌尾嚕神王(クビロじんのう) गुपिल/Gupila/グピラ?
守護者?

⑬眞特嚕神王(シンダロじんのう) किंनर/Kimnara/キンナラ
緊那羅。美妙な音声をもち歌舞をなす帝釈天配下の楽神。天龍八部衆、十二神将

⑭嚩吒徒嚕神王(バタドロじんのう) भट्टधर/Bhattadhara/バッタダラ?
王の維持者?

⑮尾迦嚕神王(ビカロじんのう) विकराल/Vikarāla/ヴィカラーラ
ドゥルガー。3つの目と10ないし18本の腕を持つ戦いの女神。十二神将

⑯倶吠嚕神王(クベイロじんのう) कुबेर/Kubera/クベーラ
毘沙門天/多聞天。富と財宝の神、夜叉族の王、北方守護。四天王

※神王は『陀羅尼集経』第三では「大将」
※謎の神様の梵名は梵英辞書から推定

伝記では、十六善神は十二神将+四天王とされているが(『塵添壒囊抄』)、実際は一般的な十二神将から10柱、四天王から2柱で、あとの4柱は謎の神様である。十六善神に入っていない十二神将は安底羅大将(Andīra アンディーラ)、招杜羅大将(Catura チャトゥラ)、十六善神に入っていない四天王は増長天(Virūdhaka ヴィルーダカ)、広目天(VirūpākSa ヴィルーパアクシャ)、十二神将でも四天王でもない十六善神は迦尾嚕神王、哆怒毘神王、嬌尾嚕神王、嚩吒徒嚕神王。

掛軸での配置については「金剛智の図式は中央に釈迦牟尼仏を安置し、その左右両辺に文殊と普賢、法涌と阿難、玄奘と深沙大将を相対せしめ、更にその左辺の上より順次に提、禁、嚩、迦、彌、哆、阿、娑の八神、その右辺の下より順次に印、波、摩、嬌、眞、嚩、尾、倶の八神を列すと云い、このほかまた常啼、迦葉を図するものあり(『名相問答録』)」とあり、左上から下に行き、右下から上にいくという順序になっている。とはいえ実際にはどれも同じような姿・持ち物で区別しにくい。お寺さんで、掛軸や理趣分品の経典に十六善神図があったら改めてご覧頂きたい。

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