11日(日)、米沢市伝国の杜にて、人権啓発講演会が行われた。講師はTBSテレビ報道局解説室長の杉尾秀哉氏。「みのもんたの朝ズバッ!」の月・火曜日に、コメンテーターとして出演しているので顔を見れば「ああ!」と思うだろう。今回は「家族のつながり、今大切なこと〜報道の現場から〜」という演題で90分の講演である。500人収容の会場はほぼ満席となった。
話題は震災の教訓から現代日本の抱える問題、男女共同参画が進まない背景、人権問題の原因と解決方法と多岐にわたる。いずれも難しいテーマばかりだったが、さすが長年テレビで活躍されているだけに、実体験を踏まえた明快な解説を聞くことができた。
「みのもんたさんが毎日3時間しか寝ていないのは本当だが、番組中に考えるふりをして寝てしまうことがある」とか、「『朝ズバッ!』は台本がないので杉尾さんは朝3時に起きて新聞を読み込んでいく」とか、「テレビ司会者のギャラは、島田紳助さんクラスだと1時間○○万…これはツイッターに流さないでくださいよ(笑)」などとテレビ番組の裏側の話で聴衆の興味を喚起する。みのもんたが、同期の久米宏をずっとライバル視して、ハングリー精神で頑張ってきた話が心に残った。「世界一忙しい司会者」としてギネスブックに登録された今でも「仕事が頼まれるうちが花」と仕事の依頼は断らないそう。人権擁護委員にしても、頼られる存在であることをありがたく思わないといけないなと感じた。
震災の取材を通して杉尾さんが思ったことは、「平凡に暮らすことの幸せ」だったという。生死の境は紙一重で、明日何が起こるか分からない世の中であることを、この震災で多くの人が意識した。そのとき、普段はうっとうしいと思われがちな近所や地域社会が大切な絆になる。取材すると「私よりももっとひどい目にあった人がいます」という被災者の「利他心」が、外国メディアも驚く日本人の底力なのだと杉尾さんは指摘した。仏教が説く諸行無常や、慈悲の話にも通じる話しである。
日本の閉塞感に関して、「日本ポルトガルタウン説」というのがあるそうだ。かつてポルトガルは小国ながら大航海時代の旗頭として世界をリードしたが、後発のスペインやイギリスに追い抜かれ、震災と津波に首都リスボンが襲われた(1755年)。昨年GDP2位の座を中国に明け渡した日本も、津波に遭ってポルトガルと同じ道をたどっているのではないかという。環境問題、国の大借金、人口減少が、これまでのような経済成長を難しくする。年金の仕組みが、かつては胴上げ型(多人数で1人を支える)だったのが、今は騎馬戦型(3〜4人で1人を支える)になり、やがて肩車型(1人で1人を支える)になっていると喩えていた。
このような閉塞感を打ち破るべく、日本では女性の社会進出が重要だと杉尾さんはいう。日本の女性の社会進出が進んでいない状況を、GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)や、GGI(ジェンダー・ギャップ指数)など女性の地位国際比較で明らかにした。その背景には「夫は外、妻は内」に見られる固定的な家族観や、「お前誰に養ってもらってんだ!」(最近は、妻が夫に言ってそうだが)というような男性優位の意識が根強いことを挙げた。そしてこれは女性だけでなく、過度の重責によって労災やうつに見舞われ、自殺に追い込まれる男性にとっても不幸なことだという。仕事一辺倒ではなく、家庭や地域や趣味で「複線的な生き方」をしていれば、仕事が行き詰まっても前向きに生きていけるのではないかと提案していた。
最後に、障害者・外国人差別や子供の虐待、いじめに触れ、「くさいものにふた」「知らなければいい話」ではなく、知って向き合って克服する努力が必要だと力説。これらの差別意識はまだまだ根強いと感じる。そして現に差別で苦しんでいる人がいることを念頭に、次の五原則を提示。この五原則は、報道の現場でも活用されているという。私は特に5番目が、「行うは難し」なだけに大切なことだと思った。
人権を尊重するための五原則
1. 人の多様性を認める
2. 相手の立場になって考える
3. 人を先入観で捉えない
4. 主体的に判断する
5. 間違ったら直接謝る