『ブッダの優しい論理学―縁起で学ぶ上手なコミュニケーション法』

ブッダの説法に皆が納得したのは、言い争いを避けた優しいコミュニケーション術にあった。インド論理学の専門家である著者が、原始仏典からそのあり方を見る。
時間軸に沿って順次立てて話すこと、質問者の問いに従って答えること(問いと答えの縁起)、怒りには怒りで答えないこと、矛盾を誤解と考えてみること、二重否定は肯定とは限らないこと、正誤より善悪で考えること、対偶は言葉の縁起で捉えられること、断定(演繹)・場合分け(帰納)・反問(帰謬)・捨て置きの4つの答え方を駆使することなどが説かれている。
はじめに論理学用語ありきではなく、分かりやすく説明して、後からさりげなく論理学用語を当てはめるのは見事。
優しさも、コミュニケーションでは重要な戦略であることが分かる。例えば次のようなブッダの言葉。「罵らない私たちを罵り、怒らない私たちを起こり、争論しない私たちに争論をしかけたが、私たちは、それを受け取らない。だから、それは、あなたのものになる」悪意は、受け取らなければ相手にはね返るだけの話ということである。」
「行かないことはない」という人に、「行くか、行かないか、どっち?」と聞いてはならない。会話を進め、事情を少しずつ知るために、「どうしたの?なにかあるの?」と確認するのが、相手の心を大事に考えるということである。
「討論を通じて、人がともに語るにふさわしいのかそうではないのかを知らねばならない。比丘たちよ。もしある人が質問されて、断定的に解答すべき問いに、断定的に解答せず、分けて答えるべき問いに、分けて解答せず、反問して答えるべき問いに、反問して解答せず、捨て置くべき問いを、捨て置かないならば、このような人は、比丘たちよ、ともに語るにふさわしくないのである。」重要な教えならば断定的に解答し、詳しい説明を求められているならば分けて解答し、相手の質問や論に難点があれば反問して解答し、堂々巡りになりそうだったら、捨て置く。一辺倒でない細やかな対応にも、優しさがある。
ブッダの思考法を、西洋論理学の用語で再構築していくのは、かけ離れすぎている分、意欲的な試みである。本書は非常に読みやすい分、物足りなくもあった。著者には今後ももっと多くの経典から、ブッダの思考法を分析してほしい。

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