『お葬式の雑学』

お葬式のやり方は、隣町に行っただけで全く異なることがある。なので、長年慣れた自分の地域のやり方が絶対正しいと思ってはいけない。本書は、日本発の葬儀相談員である著者が、全国各地から集めた風習を、葬儀の順序に沿って整理・紹介するものである。
火葬は葬儀の前か後かというのが、地域によって異なるのは知っていたが。前火葬は東北と沖縄と、一部の都市だけで、後火葬のほうが多いというのは初めて知った。そのほか、宗派別の焼香回数の一覧表とか、通夜・葬儀・法事別の服装の例など、丁寧で分かりやすい。
なるほど!と思ったのは次のような薀蓄。
・香典はふくさに包んで
・遺体に刀を置くのは、ヒゲをそって髪を短くしたのが起源
・秩父では会葬者全員が杖と天冠をする。また通夜に紅白の水引を出す(遅れたお見舞いという意味)
・出棺で棺を回すのは行道を表す
・天冠は悪霊や鬼から逃れるためのもの
・玄関以外から出棺するのは戻らず成仏するように
・心臓ペースメーカーは火葬中に破裂する
・葬式で「重ね重ね」「いよいよ」など重ね言葉はタブー
・会葬者まで喪服を着るのは日本だけ
・明治6〜8年まで火葬禁止令があった
・昔は赤飯を魔よけや厄払いのため葬儀で出していた
・喉仏は溶けるので、第二頚骨で代用している
・淳和天皇(840年没)や親鸞は散骨を遺言
・火葬船の構想がある
一方、一般的にそういうならば異を唱えたいこともあった。
・「香典」は葬式のみ→法事でも使えるのでは?
・霊柩車は故人の足から→頭からという葬儀社もある
・十七〜二十七回忌は行わない人がほとんど→こちらは行う人がほとんど
・祭壇は仏教的には意味がない→須弥壇と考えれば意味はある
あとがきで著者は、どんな風習にも、故人への優しさや遺族への思いやり、家族を大切に思う気持ちが溢れているという。そしてお葬式の心得として「故人の旅立ちを、心からの感謝で見送る」と説く。逆さ水や着物の反対合わせなど、死を恐れ、死の穢れから逃れるためのものと捉えがちだが、たいへんよい見方だと思う。本書全体も、単なるネタ帳ではなく、このような意識から作られていて好感が持てた。

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