去年、御詠歌の先生のお寺に行ってお習いしていたときの話である。
「おのさんは、楽器を今もやってるんですか?」
「ずっと吹いてないです。練習してないと、自分ではこれくらいできるはずだと思っているのにできなくて。」
「おのさんはどうか分からないけれど、高学歴の人って減点法で考えちゃんだよね。加点法で考えればいいのに。」
トロンボーンは、小学生の頃から15年ほど吹いてきたが、住職になって以来、10年近く遠ざかっていた。練習する時間も仲間もなかったのである。たまに音を出しても屁のような音しか出ないとモチベーションが上がらない。
実は近所に映画『スウィングガールズ』を機に発足したジャズバンドがあって、5年ほど活動している。友人からよく誘われていたが、この度、山形に定住して初めて参加できることになった。今日が本番で、あやめ公演で行われた「夢灯」というイベントのアトラクション。屋外なので寒かった。
その練習の中で、自分に言い聞かせていたのが上記の「加点法」である。1曲通して吹いてみて、できないところを挙げればきりがない。それで落ち込むよりは、できないことを前提にして、ここはできた、ここもできたと積み重ねていくことにした。(もっとも、加点法だって演奏に点数をつける行為に変わりはないから、ほんとうはそんなことも気にしないのがベストだけれど。)
そうするとすこぶる気持ちがよい。幸い、できなくても文句を言われることもなかったのは、もしかするとこのバンド自体も加点法的で前向きなのかもしれない。
3回だけの練習で迎えた本番。家でおさらいしておこうと思ったが、結局そんな時間は全くなかった。『ルパン三世』『シングシングシング』など30分ほどの演奏。出来は自分ではこれまでで一番の内容だった。だいたい練習では音がスカスカで出なかったわけだから、出ただけでも嬉しい。
演奏は、スポーツなどと一緒で、最低限度のスキルが求められる。しかし、そのスキルにこだわっていては、いつまでも楽しめない。ストレスが溜まるようではまともな音も出なくなり、自滅してしまう。ブランクを置いたおかげで、そんな呪縛から脱出できたような気がした。
ただ、趣味として楽しんでいくには、ボードゲームのように月1,2回程度ではモノにならないから、レギュラーは無理かな。半年に1回、2〜3週間練習して発表するくらいのペースだったらよい。