体格でも足の速さでも劣る中村選手は、味方や監督が試合中に何を求めているか「察知」し、それに対応する技術を磨くことでこれまでやってきた。そんな中村選手のこれまでとこれから。
中3のとき、チームが変化して組織的なプレイが求められていたのに気づかずひとりよがりなプレイを繰り返してユースチームから外されてしまった「トラウマ」が今につながる原動力だという。満足感・達成感をもたずにひたすら危機感を持ち続けること。自分には何が足りなくて、何が必要なのかを考えること。失敗をその後の未来に活かすこと。
「サッカーノート」を作り、短期(1年後)、中期(3年後)、長期(それ以上)の目標を書いておく。目標を設定してクリアするのはRPGみたいなものだという。楽しくなければ続かないものだ。ただし、それは楽なほうに逃避するということではない。未来の自分、なりたい自分を想定し、そのために必要な環境を選ぶこと。外国人が苦労するといわれるセリエAの下位チームに所属していたのはそういう理由だったという。
そして「察知」に次いでよく使われるのが「引き出し」という言葉。積み重ねた経験から生まれる対応力のことである。「たくさんの引き出しがあると、自分を信じることができるから、相手が誰でどんな場面だろうと、妙なプレッシャーを感じることはない。」「しかし、体験しただけじゃ引き出しは増えない。その体験を未来にどう活かすか、足りないことを補い、できたことをもっと磨く、そういう意識がなければ引き出しは生まれない。」(p.62)
「察知」とはいえ、日本人の察する文化には同意していない。「でも、日本人はあまり言い合わない。高いレベルの選手同士なら、要求し合うのも当然のことだと、受け止めることができるだろうけれど、多くの場合は違う。中には、要求されたことを、「怒られた」と感じてしまうことも多いと、聞いたことがある。(中略)何も言わないよりは、言ったほうがいい。何か言うことで、言われた選手は意識し始める。」(p.147)
中学生の作文みたいな構成ではあるが、それがかえって著者の意志の堅さを物語っていて気迫が伝わってきた。