ブログやミクシィで、ある人物への非難が燃え上がり、収拾がつかなくなる「炎上」という現象を群集心理とネットの特徴から分析し、これからますます進むウェブ社会の方向性を探る。
筆者によれば炎上はウェブ社会になってから起こったことではないという。ラジオで放送された『宇宙戦争』が引き起こした火星人が攻めてくるというパニック、女子高生の会話が発端で取り付け騒ぎとなる豊川信用金庫事件、東ドイツのスポークスマンの失言がもとになったベルリンの壁崩壊など、リアル社会でも起きている。
しかしこれがウェブ上で起こると、可視化(目に入りやすい)とつながり(広がりやすい)という特徴によって急激になる。小さな流れがいつの間にか極端で大きな滝になるこの現象は「サイバーカスケード」と呼ばれる。対応できない状態になるだけでなく、叩かれた個人の情報がアップされたりととどまるところを知らない。
事例として挙げられているのは以下のような事件である。
・乙竹洋匡ブログ炎上(悠仁さまの誕生で)
・上村愛子ブログ炎上(亀田興毅を応援して)
・あるある大事典騒動(志村けんの反省に)
・TDC炎上(おたくの反乱)
・JOY祭り(店員を殴ったことに非難)
・きんもーっ☆事件(おたくの反乱)
・スティーブさんの自転車を探すオフ(ノートを探し出す)
・タカラ騒動(ギコ猫の商標登録に)
・のまネコ騒動(エイベックスが著作権を申請)
・東芝クレーマー事件(まずい窓口相談を録音して公開)
・バズマーケティング失敗事件(NHKに出演した女子大生の話)
・銚子電鉄ぬれ煎餅祭り(赤字対策の煎餅がばか売れ)
・丸紅祭り(パソコン19800円)
・田代祭り(タイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに)
・川崎祭り(オールスターゲームのファン投票)
・塩爺(流行語大賞)
・ゴッゴル祭り(サーチエンジン最適化コンテスト)
・イラク人質バッシング(自業自得と)
・浅田彰の戯言(他国が攻めてきたら素手で応戦と)
・福島瑞穂の迷言(警察官は丸腰で逮捕に向かうべきと)
・「ジャップって言うな!」事件(極楽とんぼ加藤の謝罪動画から始まった誤解)
・犬糞女事件(韓国で犬の糞を片付けなかった女性の個人情報がさらされる)
・あびる優万引き事件(若い頃の強盗自慢で苦情殺到)
・鮫島事件(2ちゃんねるで話題になる架空の事件)
これらの例は、悪意が暴走しているものばかりではない。ときには善意や義憤から始まったものだが、それが膨張し手がつけられなくなることもある。
ここから筆者は、サイバーカスケード自体が悪いとか、規制するという発想ではいけないという。インターネットの長所でもあるので、それを活かしつつ両論併記のハブサイトや、成員が民主的に振舞えるアーキテクチャを構築しなければならないと。
提言は実効性があるかどうか分からないが、とにかく豊富なケーススタディとして楽しく読めた。「もちろん〜と言いたいのではありません」というフレーズを多用するあたり、筆者も相当ウェブでもまれているようだ。
ウェブ上にもう1人の自分がいるという時代、ウェブ特有のリテラシーというものの必要性を強く感じた。