昔の手紙

庫裏の新築が決まったので、今の庫裏を片付けなければいけない。昨日は第一弾として亡き祖父の部屋の整理を始めた。
不要なものは解体業者が分別するのでそのままにしておいてよいという。したがって必要なものだけを取り出していく作業だが、いつも乱雑にしているツケが回る。本堂の倉庫に続くリアル倉庫番2。
その中から、曽祖父が受け取った手紙が出てきた。大正から昭和初期のものである。
札幌に嫁いだ大叔母が曽祖父に送金をお願いする手紙が胸を打つ。父母を案じ、日々の苦労を愚痴り、お金を無心するこの手紙は生活の苦労をしのばせる。切手は三銭。
「雪を見た時すぐ内地の事を思ひ出しました。事に此の頃はいろいろ見たり聞いたり珍らしい事が有る度びに御父母様の事を思い出し弟達の事を思ひ出されてなりませんです。」
「私は針仕事をして少しづつの家計のたしにして居ります。朝早くから夜十時半十一時頃までやって居ります。(中略)夜は子供を寝かしてからやりますの。だから歯が浮きてしまって奥歯は皆物をかむははなく前でやうやく物を食べて居りますの。それで別に体も悪るくしないで毎日働いて居ります。これも御父母様の御陰と感謝して居ります。」
「いつか前ニ年も立ちましたがジャケツの袖と足袋カバーとをあんで有りましたの。御氣に召さないでせうけれども弟につけてやつて下さいませ。カバーはキノヱにビン止め二ツキノヱに上げて下さいませ。」
「それから私の命にかけてのおねがひで御座居ます。主人にはおこられるから内証で十二月の二十日頃まで間違なく御返し致しますから十円何んとか都合して借して下さる様固く固くおねがひ致します。」
ほかにお寺で酒を飲んで暴れた檀家さんが「私儀酒癖ノ過失ヲ懺悔シ将来ヲ謹慎スル」とした誓約書、寄付で頂いた十円札(大叔母にやったらよかったのに)、近くのお寺から頂いた達筆の手紙など。いずれも貴重な古文書としてファイルした。
今は何事もパソコンですましてしまうので手書きの手紙など滅多に書かないし、豊かになって昔のような生活苦もない。この手紙を見ていて、言葉だけではない感謝の気持ちとか、父母や年長者に対する尊敬の気持ちも、昔と比べるとずいぶん薄くなってしまったのだなぁと、心寒くなった。

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