レトリックの第一人者による反・論理的思考のすすめ。論理的思考が通用する場面は、ディベートのように両者が対等な立場にある場合に限られ、実際は偏った力関係の中で説得の手段を見出さなければならない。
著者は詭弁というのが勢力のない側が使った場合にそう呼ばれるだけで、普通によく用いられていることを示す(「あなたは平和憲法の改悪に賛成ですか?」)。
その上で、定義からの議論と因果関係からの議論を両立させないほうがよいこと、論点のすり替えはより重要な問題への移行だとする意見、先決問題要求の虚偽は実際意図がみえみえで詭弁にもならないことをレトリックの教科書を参照しながら説明する。
共通するのは、議論は主張者が誰でも同じなのではなく、主張者の信条・態度・信頼度(エートス)を巻き込んだ上で説得力が生まれるということだ。これは従来に論理的思考の本ではあまり触れられず、また触れられたとしても無碍に否定されていたことではないだろうか。
著者の書き方がすでにレトリックの教科書のようになっていて面白い。新書で紙幅が限られているためだとは思うが、トピックが少なくて物足りないので、もう2,3章くらい多くてもよかったと思う。