物質世界の中に生物世界が開かれた構造からの類推を手掛かりに、生物世界の中に開かれる心の世界のありようを執拗なほど丹念に追求する。
人間が心の世界をもったのは、記憶によるところが大きいという。本能、刷り込み、条件反射を経て自由意志へ。記憶から時間と空間が生まれ、論理と感情が生まれる。
論理を原初的には因果律の判断と捉えているところが面白い。インドの論理学も古代には因果関係が大きな軸だった。それが必然かどうかを問われて、演繹論理学の性向を帯び始める。
心というあやふやなものを客観的につきつめていくとき、その限界も明らかになっている。心の世界を維持し、未来を展望するために必要な規範則は、神などの絶対者によらない限り、絶え間ない自己研鑽によってしか得られない。
そこに、人間とは何か、自分とは何かを問い続ける人文学の意義が見出されるのだと思った。最近、文系であることに自信をなくしつつあったが、この本を読んで力づけられた。
遺伝や神経など、高校の頃習った生物学の知識を再確認できると共に、関連する哲学まで紹介されており、新書とは思えない読み応えがある。