療養(3)

冬季のカシミールは、深刻な電力不足に見舞われる。夏でも毎日4時間の計画停電があったが、冬はこれが延び、15時間以上停電している。つまり電気が来ている時間の方が短いというわけで、電気のありがたさが身にしみるという段階を過ぎ、電気なしでも気にならなくなってくる。
暖房は弱々しい電気ヒーターがあったが、タヒルさんが大きいガスストーブを新調してくれた。たいていタヒル家は冬場、ジャンムに移り住む生活をしており、カシミールに留まることになったのは最近だという。そのせいかみんな寒さには弱い。普段家にいるときは体に毛布をまとって過ごす。お母さんがゴム製の湯たんぽを用意してくれ、足元に置いて暖を取っていた。私も、プネーの生活ですっかり寒さに弱くなっている。
夜に停電するとガスランプが活躍した。暖房器具がないから居間に家族全員が集まってガスランプの明りの下で団欒する。親子で抱き合ったり兄弟でふざけあったりしている様子は見ていて心が和むものだ。ただ、体調がまだ回復しておらず、毎食後に赤と黄色のシロップを飲まされている娘だけはなじまず、だっこされるのを頑なに拒む。
娘の下痢はまだ治らない。何がお腹に悪いのか、タヒル家と議論になった。まず娘が食べたがっているバナナはダメ。それは分かる。あとマトンも大好きだったが禁止。かわいそうだがこれも承知できる。クッキーも油脂があるからお腹に負担がかかるだろう。そうかもしれない。でも日本から持ってきたフリーズドライの豚汁―これも娘が飲みたがったものだが―はカシミールの水に合わないとか、あまつさえ砂糖まで悪いというのは納得がいかなかった。父母がたらふくご馳走になっているそばでパンとごはんと水、そしてリンゴという貧しい食生活を余儀なくされる娘。

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