引越し完了

引越し引越し自体はあっけなく終わった。2時間で荷物をまとめ、テンポと呼ばれる小型トラックに積み、運んで降ろすまで2時間。費用も人件費込みでたった750円。
テンポの運転席は1人乗り。そこに無理やり乗り込んで、道の風景を眺めながら日本で引っ越したときのことを思い出す。私と妻は、つくばに引っ越した翌日に入籍したのだった。その引越しのときの、こまごまとしたことを思い出しているうちに胸が詰まる。今はたった一人の引越しだ。
そんな感慨に浸っているうちに新居に到着。帰りに120円の追加料金を要求されたが、容赦なく断る。こういうのはただ言ってみているだけ、もらえれば儲けものという程度だということが、インドに暮らしていると分かってくる。
準備万端でやってきたはずが、まだ終わっていないことがあった。それは電話である。携帯があるから連絡はつくものの、インターネット接続ができない。私は契約の当初から不動産屋を通して大家に、口を酸っぱくして電話の手配をお願いしていた。ところが準備が終わっていないとはどういうことか?
翌日、不動産屋に連れられて大家と会うと、彼は謎の電話機を渡してきた。リライアンス・フォンという一見普通の電話機だがPHSを使っている半モバイル機である。「半」というのは、どこに持っていっても通話できるが電話機が大きすぎて持ち運ぶには不都合というもの。ブロードバンドの通信モデムまで内蔵されている。
これはすごいと思ったのもつかの間、通信モデムからパソコンにつなぐLANケーブルが9ピンというもので、私のパソコンにつながらないことが分かる。その上、通話料金も割高とあっては全く意味がないので、通常のアナログ回線BSNLを頼んだ。
ところが電話局に行って驚く。大家が電話代を6ヶ月滞納していて、それを支払わなければ使えないというのだ。滞納金13,000円。しかも大家は今お金がないから、この電話代を立て替えてくれ、来年に返すなどと言う。「敷金や今月分の家賃を受け取ったから十分お金はあるだろう」と詰め寄ると、これには答えず「BSNLは自分にとって全く不要なものだ」などと開き直る。そりゃあんたには必要ないでしょうよ、ここに住んでいないんだから。「それなら今払う分、来月の家賃は払わない」と言うと「契約では電話を引いておくというだけで、電話会社は指定されていない。自分はリライアンスを用意していて、それにパソコンがつながらないのはあなたの側の問題だ」と、今度は契約の抜け道をついてきた。契約時に「BSNLを引く」と言っていたのは単なる口約束だから有効ではないという。
結論が出ないままどうしようもなくなって物別れ。そばにいた不動産屋は「あの男には筋を通すってものがないのか!」などと憤っていたが、そういうことは本人の前で言え、本人の前で。そう言うと「私にはできることがなかった。このアパートなんかやめて、ほかのアパートに行ったほうがいいよ。紹介するよ。」などとまた無茶なことを言う。ベッドのサイズを測って布団を作り、荷物を全部運んでからそれはないだろう。
これぞまさしくインド的なやりとりである。「ああ、なるほど」と引き下がったら負けだ。ときには感情をむき出しにして食い下がる。対立する論理と説得力の力比べ。今回は明らかに敗北したが、後でやりとりを思い返すといろいろ面白いことが見えてきて、私の研究テーマである「インド討論術」の実習としてためになった(としておく)。

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