インドのトイレには紙がない。
用を足した後、水を入れた手桶を右手にもち、左手の指にちょっと水をかけてぬらす。その左手の指で肛門を拭い、汚れた指に再び水をかけて洗う。これを何度か繰り返してお尻を洗うというわけだ。
指は長くて太い中指が一番よい。指の腹を使う。はじめは便がついていることがあるが、それを指でこそげ取って流し落とす。次に第一関節ぐらいまで肛門の中に入れてぐりぐり洗い、ついで肛門の周囲半径1,2センチまで洗う。ヌルヌルした感触がなくなったら終わり。排便の直後には開いていた肛門が、徐々に収縮していき完全に閉まるまで数十秒(下痢の時は収縮が非常に遅れる)。この間が勝負だ。
洗い終わったら、中指が触れないように薬指と親指でズボンを上げる。そして石鹸でしっかり手を洗う。石鹸がないときは、長めにごしごし洗う。
インドのトイレにはたいてい、便器のそばに蛇口と手桶がある。金隠しがないのは、腕を回しこまなければらないからだ。水をかけながら洗うので、必然的に前から回しこむことになる。洋式もあるが、水をかけながら洗うのはつらい。
外のトイレで用を足すときには、手桶がなかったり、底が抜けていたりすることもたまにある。そういうときは右手を丸めて水をもつことになる。あたりは水浸しだがすぐ乾くものである。
紙を使っている日本人も多いが、紙は大きい店でしか買えない上にトイレに流していけないので、面倒くさがりやの私はいつしかインド式になってしまった。もっとも日本でも僧堂でこのやり方がつい最近まで行われており(『Fancy Dance』参照)、あまり抵抗を感じなかった。
抵抗どころか、すみずみまでキレイになるし粘膜を傷つけないしで紙に戻れないのではないか思うぐらい。インドでは左手が不浄とされ、ご飯を食べたり握手をしたり、人を指差したりしてはいけないのだが、お尻を洗っているとこれが身をもって分かる。いくら石鹸でキレイに洗っていても、ご飯をつかむ気にはなれない。
気をつけるのは、爪をよく切っておくこと。そうでないと肛門を傷つけたり、爪の間に便が挟まったりしてしまう。あと、日本人の間でインド式で洗っていることをあまり公言しないこと。さもないと「彼は指で洗っている」とエンガチョーされてしまうかもしれない。
最近、トイレの後だけでなく前にも手を洗うようになった。肛門に雑菌がつかないようにである。そこまで来ると自分も、一皮向けたなあと思うところだ。日本では、できないだろうなあ。