(長井法人会ワンポイント情報 令和7年11月号に掲載)
アサーション(自他尊重の会話)の三番目は、状況を改善するために具体的なアイデアや解決策を提案すること。あくまで提案(サジェスチョン)であって、命令や強制にならないようにする。「〇〇して下さい」ではなく「〇〇してみてはどうでしょうか」。
強制されると人は抵抗や反発を感じること(心理的リアクタンス)は前回も触れたが、かといって相手が察して自分で行動するのを待つのは精神衛生上よろしくない。強制でも放任でもない中間にあるのが、提案なのである。
お寺の仕事で心掛けているのは、お檀家さんにできるだけ選択肢を与えることである。「この時間しかできない」ではなく、「〇時と〇時が空いていますが、どちらがよろしいですか?」と尋ね、「どちらでもよい」と言われたらこちらの都合のよいほうにする。線香は何本立てるのか、鐘は何回鳴らすのか、葬儀の伴僧は何人にするのか、お布施はいくらか……そういった質問にもいくつかの答えを出し、どれを選ぶかは任せる。
子育ても同様である。何かをやるかやらないか、どこかに行くか行かないか、それぞれのメリットとデメリットや、親としての希望を説明して、最終的にどちらにするかは子ども本人に委ねる。選択の結果、失敗したら「だから言ったのに!」ではなく、立ち直りを支援しよう。失敗から学ぶことは多い。
非常時はともかく、仕事や家庭で相手に選択肢を与えないのは、どうしても「支配-服従」という関係になってしまう。このような提案を部下や子供にすることに対して、「舐められるのではないか」などと思うならば、それは相手を信用せず、無意識に支配しようとしていることの表れかもしれない。命令や強制に黙って従ったとしても、相手の気持ちは離れていくばかりである。自分を信用してくれない人を、人は信用しない。
あくまで決めるのは相手なので、残念ながら提案が受け入れられないこともある。言うことを聞いてくれないからといって怒ったらそれは提案ではない。その場合は代案を出す(つづく)。
