暦の上ではまもなくホーリーがやってきて春となるのだが、感覚としては春を通り越してもう夏だ。最高気温は38〜39度をマークし、40度超えの日も遠くない。道端ではスイカが売られ、もうすぐマンゴーも出回るだろう。
こんなときに昼間外出すると体力を奪われる。帽子をかぶっていても、Tシャツ1枚だけになっても、太陽が肌に直接当たって焼かれるような感覚だ。だから外出は極力控えて、家でぐったりしていることになる。家の中は比較的涼しいものの、1日を通して33度ぐらいはある。パソコンがヒートアップして壊れそうなので(実際去年は壊れた)、本を読んだり、昼寝をしたりして過ごす。天井のファンが頼みの綱だ。
しかしお店や図書館が夜開いているというわけにはいかないから、用事があればどうしても出かけなければならない。来月帰国のチケットを旅行会社で予約して、頼んでおいた写本を研究所で受け取りに出かけた。インド伝説研究所(バーラト・イティハース・サンショーダク・マンダル)は、昼休みが午前11時30分〜午後4時というナメきりようで、昼前に旅行会社に行った後、映画でも見て涼んでから行こうという魂胆である。
旅行会社からCDショップに寄ってDVDを買った後、映画館に向かう。その途中で日本人風の女性が歩いているのを見つけた。プネーの道端で日本人と会うのは珍しいので声をかけてみるとやはり日本人。中国から東南アジア、インド、ヨーロッパと長期旅行をしているという。インドもデリーからジョドプール、ムンバイ、エローラ、アウランガバード、プネー、ゴア、コーチン、コルカタと一周旅行だ。マクドナルドでいろいろと話を伺う。プネーはアウランガバードからゴアに向かう途中に寄っただけで、特に用事はないというのでせっかくだからお節介にも土曜宮殿を案内した。本当は自分が見たかっただけなのだが。
土曜宮殿は18世紀に作られたマラータ王国のお城。土曜日に竣工され、土曜日に完成したことから名づけられたという。ムガル帝国にもイギリスにも抵抗し続けた最後のマラータ王国の遺跡はプネー市民の誇りとなっている。木造だったため19世紀に火事で焼失し、土台だけが残っているが近年緑の整備が進んで、とても見栄えがよくなっている。外国人料金は100ルピー。インド人は5ルピーで入ることができ、たくさんのカップルが木陰で憩っていた。入場料があって人があまり入ってこないので格好のデートスポットになるのだろう。こんなにたくさんのカップルを見るのは初めてだ。
とはいえ炎天下、土台だけの遺構なので見ていてそれほど面白いというわけではない。おしゃべりしながら周りの城壁の上をぐるりと歩いた。目的をもってある土地に向かうというのが私の考える旅行のあり方だが、彼女によれば転々と旅行していく放浪癖は一種の病気みたいなものだという。そんなものかもしれない。
別れを告げて研究所へ。途中のおもちゃ屋でボードゲームを漁ると、クラマー作『タイクーン』のインド版を見つけた。世界をまたにかけてホテルや工場を建設していくボードゲームで、オランダのジャンボ社が発売していたものだ。版権をちゃんと取ったのかどうか分からないが、350円。リキシャーで市役所前まで行って、バスで帰宅した。
暑さが収まるのは明け方になってからで、夜もずっと暑さが続く。その上、このところどの家でもファンをつけているせいか、夜になって突発的な停電が起こる。20時から23時まで停電になったりすると、もう朝まで寝るしかない。昼は暑すぎて頭が回らず、夜は停電という、勉強するにはかなり過酷な環境だ。花粉症に悩まされる日本とどちらがいいかというと、難しいところだが。
夜のベッドは、昼間の暑さを蓄えてまるで電気毛布が入っているよう。蚊取りリキッドをつけてもまだ蚊が元気なので、とうとう蚊帳を出した。