施食会のお経『甘露門』のもとになった『佛説救拔焔口餓鬼陀羅尼經』『施諸餓鬼飮食及水法』を読解。「大宝楼閣善住秘密根本陀羅尼」と「光明真言」は入っておらず、書いてあるのに読まない「發遣陀羅尼」は「読まないと餓鬼が帰らない」と説明されています。読む回数や印契の説明もありますが、現在は守られていません。サンマヤ戒とか、禅宗が密教の加持法を取り入れた際、教義的な齟齬が生じないようにしたのかもしれません。
佛説救拔焔口餓鬼陀羅尼經
尊師が、カピラ城のニヤグローダナ寺で大勢の比丘や菩薩に囲まれて説法していらっしゃったときのことである。
そのときアーナンダはひとり静かな場所でブッダの教えを念じていた。その夜、午前一時を過ぎた頃、「焔口」という名の餓鬼が現れた。その姿は醜く痩せこけ、口中は燃え、喉は針のように細く、髪は乱れ、爪は長く尖り、とても恐ろしいものだった。その餓鬼はアーナンダの前に立ち、「三日後にお前の命は終わる。そして餓鬼界に生まれ変わるだろう」と言った。
アーナンダはそれを聞き、怖くなって餓鬼に尋ねた。「私が死んで餓鬼界に生まれるとしたら、どんな助かる方法があるでしょうか?」
餓鬼はアーナンダに答えた。「明日、数えきれない餓鬼たちと、何千人ものバラモンなどに、マガダ国で使っている大きなマスでそれぞれ一杯ずつ飲食物を布施し、私のために三宝を供養すれば、汝の寿命は延びるだろう。私から餓鬼の苦しみを除き、天界に生まれ変わるようにせよ。」
アーナンダはこの焔口餓鬼を見ると、その姿は醜く痩せこけ、口中は燃え、喉は針のように細く、髪は乱れ、爪は長く尖っている。このように聞いたら従わなければと、アーナンダは怖くなって毛が逆立った。すぐに立ち上がってブッダのおられる場所に駆けつけ、五体投地して仏足を頂き、身震いしながらブッダに言った。「私をお助け下さい。というのも、静かな場所でブッダの教えを念じておりましたら、「焔口」という餓鬼と会い、『お前は三日後に必ず命が終わり、餓鬼界に生まれ変わるだろう』と言われたのです。私はどうしたら助かるか尋ねたところ、餓鬼は『数えきれない餓鬼たちと、何千人ものバラモンなどに、飲食物を布施すれば汝の寿命が延びるだろう』というのです。尊師よ、私はどうやって餓鬼やバラモンたちに飲食物を用意すればよいのでしょうか?」
そのとき尊師はアーナンダに告げた。「そう怖がるな。数えきれない餓鬼たちと、何千人ものバラモンなどに、飲食物を布施す方法がある。だからもう悩むな」
ブッダはアーナンダに告げた。「無量威徳自在光明殊勝妙力という陀羅尼がある。この陀羅尼を唱えるだけですぐ、数えきれない餓鬼たちと、何千人ものバラモンなどに極上の飲食物で満足させることができるだろう。そうすれば皆、マガダ国で使っているマス四十九杯分の食事を得られる。アーナンダよ、私は前世でバラモンだったとき、観世音菩薩や、世間自在威徳如來のところでこの陀羅尼を授かったので、数えきれない餓鬼とバラモンなどいろいろな飲食物を施すことができ、餓鬼を苦しみの身から脱出させ天界に生まれ変わらせることができた。アーナンダよ、今これを習得すれば、幸福も寿命も増大するだろう。」
こうしてブッダはアーナンダに陀羅尼を教えた。 「ナマハ、サルヴァタターガタ・アヴァローキテー、オーム、サンバラ、サンバラ、フーン」
ブッダはアーナンダに告げた。「もし誰しも、寿命と幸福を増大させ、究極の布施を完成したいならば、朝でもいつでもかまわず、清潔な容器に清浄な水を汲み、少量のご飯と団子などを置き、右手で食器をもち、先ほどの陀羅尼を七回唱えなさい。その後で四如来のお名前をお呼びしなさい。『ナモー、バガヴァテー、プラブータラトナーヤ、タターガターヤ』これは多宝如来のことである。多宝如来のお名前を唱えればそのご加護により、一切の餓鬼が長い輪廻の間に積み重ねた物惜しみの悪業を解消でき、すぐに幸福円満になるだろう。
『ナモー、バガヴァテー、スルーパーヤ、タターガターヤ』これは妙色身如来のことである。妙色身如来のお名前を唱えればそのご加護により、餓鬼の醜い姿を打破し、美しい姿となるだろう。
『ナモー、バガヴァテー、ヴィプラガートラーヤ、タターガターヤ』これは廣博身如来のことである。廣博身如来のお名前を唱えればそのご加護により、餓鬼の喉が広がり、施された食物で心ゆくまま充足できるだろう。
『ナモー、バガヴァテー、アバヤンカラーヤ、タターガターヤ』これは離怖如来のことである。離怖畏如来のお名前を唱えればそのご加護により、餓鬼の恐怖は全てなくなり、餓鬼界から脱出させられるだろう。」
ブッダはアーナンダに告げた。「誰であれ四如来のお名前を唱えてご加護が得られたら、七回指をはじきなさい。そして食器を手に取り、きれいな地面に、肘をのばして注ぎなさい。こうすれば、 四方にいる数えきれない餓鬼全てに、マガダ国で使われているマス四十九杯分の食事が現れ、それを食べて皆が満腹になる。そして皆餓鬼の身を捨て、天界に生まれ変わるだろう。アーナンダよ。仏教徒は誰であってもこの陀羅尼と四如来のお名前によって食事に加護を行い、餓鬼に施せば、無量の幸福を満たし、数えきれない如来たちを供養したのと同じ功徳がある。寿命が延び、気力がみなぎり、悟る能力が満たされる。全ての悪魔も怪物も寄せ付けず、限りない幸福も寿命を成就することができる。もしバラモンたちに施したいなら。清らかな飲食物で器を満たし、先ほどの陀羅尼を十四回唱えて、清らかな川に注げ。そうすることでバラモンたちの極上の食事になる。数えきれないバラモンたちを供養すると、バラモンたちがその食事を召し上がるので、陀羅尼の威力で皆がそれぞれの願いと善い功徳を成就し、次のような誓願を発するだろう。『この食事を供養してくれた人の寿命が延び、気力をみなぎり、その人がブッダから見聞したことを正しく理解し、清らかでありますように。ブラフマー神のような威徳を備え、清らかに生活できますように』と。 これも数えきれない如来を供養したのと同じ功徳があり、怨念などを一切寄せ付けなくなるだろう。仏教徒なら誰しも、三宝を供養したいと思ったならば、お香、花、清らかな飲食物を供え、先ほどの陀羅尼を二十一回、三宝に向かって唱えなさい。そうすれば、十方世界の仏法僧に対してご馳走をお供えしたことになり、仏法僧を讃嘆し追慕し、功徳を共に喜ぶことになる。常に諸仏を心に念じ、讃嘆すれば諸天善神が常に助け、究極の布施行を完遂することになるだろう。アーナンダよ。お前は私の言葉に従ってこの修行方法を広く伝え、たくさんの生きとし生けるもの全てに限りない幸福を見聞してもらいなさい。これを『救焔口餓鬼及苦衆生陀羅尼經』と名付け、この題で保持しなさい。」
全ての弟子たちとアーナンダはブッダの教えを聞いて心に刻みつけ、大喜びした。
施諸餓鬼飮食及水法
一切の餓鬼に飲食物を施したいならば、まず慈悲の心を起こして餓鬼を集めなければならない。以下の偈文を心を込めて1回唱え、その後で仏法を授ければ、その果報ははかりしれないものとなる。
「比丘または比丘尼それがし、
(1) 発心して一碗の浄食をもち、あまねく十方、限りない大空、極まりなき世界、宇宙の果てまでの国々にいる一切の餓鬼に施す。
(2) いつ知れぬ昔の亡者、山川の土地神から、広野の鬼神に至るまで、どうかここに集まって下さい。私は今あなたたちを憐れみ皆に食事を施しましょう。
(3) あなたたちがこの食事を受け、それを転じて世界中の仏法僧や生きとし生けるものに供養し、あなたも生きとし生けるものもみんなお腹いっぱいになりますように。
(4) またあなたの体はこの加持食を受けて、苦しみを脱して解脱し、天界に生まれ変わって幸福になり、十方の浄土にも意のままに往生し、菩提心を起こし、修行をし、未来には成仏して永遠に退くことなく、先に仏道に入ったものは、必ず解脱しますように。
(5) またあなたたちは昼夜隔てなく施主の私を守り、私の万人救済の願が成就させて下さい。
(6) 食事を施した功徳を、あまねく世界の生きとし生けるものにめぐらし、全ての生きとし生けるものと功徳を分かち合いますように。餓鬼界から救われた幸福をことごとく、全ての生きとし生けるものと共に真理の世界、この上ない悟り、一切のブッダの知恵に恩返ししますように。
(7) 速やかに仏となって、再び輪廻することがないよう、生きとし生けるものよ、亡者よ、この教えによって早く成仏しますように。」
合掌し心を込めてこの偈文を唱え、印を作って餓鬼を集める。
喉を開く印は、右手の親指と中指をひねり、残りの三つ指は離してわずかに曲げる。これを普集印という。唱える陀羅尼は、
नमो भूपूरि करि तारि तथागताय ナモー、ブープーリ、カリ、ターリ、タターガターヤ(namo bhUpUri kari tAri tathAgatAya 大地に満ち、行為をなし、救済する如来に帰依します)
である。この印を作り、この陀羅尼を17回唱え、憐れみの心を世界中至るところに運び、一切の餓鬼が皆集まってくる。
次に地獄の門と喉を開く陀羅尼は、
ॐ भूपुतेरि कतरि तथागताय オン、ブープテーリ、カタリ、タターガターヤ(oM bhUputeri katari tathAgatAya オーン、大地に満ち、行為をなす如来に帰依します)
である。この陀羅尼を唱えているとき、左手で食器を取り、右手で先の普集印を作り、一回読むたびに指を弾く。親指を中指の頭と合わせ、音を鳴らし、残りの三つ指はわずかに曲げる。これを地獄の門と喉を開く印という。そのときに如来は、無量のいとくと自在な光明による不思議な力で飲食物を加持する陀羅尼を説いた。
नमः सर्वतथागतावलोकिते ॐ संभर संभर हूं ナマハ、サルヴァタターガタ・アヴァローキテー、オーン、サンバラ、サンバラ、フーン(namaH sarvatathAgatAvalokite oM saMbhara saMbhara hUM 一切の如来と観自在菩薩に帰依します。オーン、養いたまえ、養えたまえ、フーン)
この陀羅尼を十七回唱えれば、一切の餓鬼は皆それぞれマガダ国で使われているマス49杯分の食事を得、食べ終わった後で天界か浄土に生まれ変わり、修行者は業の障害がなくなって寿命を延ばすだろう。現世で無量の幸福を獲得するのだから、来世が幸福なのはいうまでもない。
次に手で印を作りこの陀羅尼を唱えて飲食物を加持する。右手の親指で中指の甲を擦り合わせ、三つ指を立てる。それから親指と人差し指をひねって指をはじいて音を鳴らす。一回唱えるたびに一回鳴らす。つぎに不死の味の陀羅尼を唱える。施無畏印を作り、右手は肘を伸ばし、五指を広げて上に上げる。陀羅尼は、
नमः सुरूपाय तथागताय तद्यथा स्रु स्रु प्रस्रु प्रस्रु स्वाहा ナマハ、スルーパーヤ、タターガターヤ、タドヤター、オーン、スル、スル、プラスル、プラスル、スヴァーハー(namaH surUpAya tathAgatAya tadyathA oM sru sru prasru prasru svAhA 妙色身如来に帰依します。すなわちオーン、流れ出たまえ、流れ出たまえ、さらに流れ出たまえ、さらに流れ出たまえ、スヴァーハー)
先述の施無畏印を作り、不死を施すこの陀羅尼を17回唱えれば、飲食物と水を無限の乳製品と不死の薬に変え、全ての餓鬼の喉を開き、飲食物を広く獲得して平等に食べさせることができる。
次に毘盧遮那仏の一文字の心である陀羅尼の印を作る。まずこの「ヴァン」の字を右手の中で、白く、8つの功徳の海になり、全ての不死の醍醐を流出するように思い描く。それから手を食器にかざし、「ヴァン」の字を17回唱え、五指を開き、食器の中に下ろして、太陽や月と乳海のように、乳製品などがこの字から流出することを思う。一切の餓鬼などはみな満腹になって足りないということはない。これを遍く一切の餓鬼に施す印の陀羅尼という。
नमः समन्तबुद्धानां वम् ナマハ、サマンタブッダーナーン、ヴァン(namaH samantabuddhAnAM vaM あまねく諸仏に帰依します。ヴァン)
心に描いてこの陀羅尼を17回唱え、清潔な地面で人の歩かないところ、池のほとりや樹の下にヴァン字を書く。ただし桃、柳、ザクロの樹の下に書いてはいけない。
描き終わったら心を込めて五如来のお名前を3回ずつ唱えれば功徳は限りない。
नमो भगवते प्रभूतरत्नाय तथागताय ナモー、バガヴァテー、プラブータラトナーヤ、タターガターヤ(namo bhagavate prabhUtaratnAya tathAgatAya 宝を生み出す如来に帰依します)
宝勝如来に帰依します。物惜しみの業をのぞいて、福智が円満になりますように。
नमो भगवते सुरूपाय तथागताय ナモー、バガヴァテー、スルーパーヤ、タターガターヤ(namo bhagavate surUpAya tathAgatAya 美しい姿の如来に帰依します)
妙色身如来に帰依します。醜い餓鬼の姿を変えて円満な姿になりますように。
नमो भगवते अमृतराजाय तथागताय ナモー、バガヴァテー、アムリタラージャーヤ、タターガターヤ(namo bhagavate amRtarAjAya tathAgatAya 不死の王である如来に帰依します)
甘露王如来に帰依します。甘露の法雨を注いで安楽になりますように。
नमो भगवते विपुलगात्राय तथागताय ナモー、バガヴァテー、ヴィプラガートラーヤ、タターガターヤ(namo bhagavate vipulagAtrAya tathAgatAya 広大な身体をもつ如来に帰依します)
広博身如来に帰依します。餓鬼の喉が広がり、飲食物で満たされますように。
नमो भगवते अभयंकराय तथागताय ナモー、バガヴァテー、アバヤンカラーヤ、タターガターヤ(namo bhagavate abhayaMkarAya tathAgatAya 恐怖なきことをもたらす如来に帰依します)
離怖畏如来に帰依します。恐怖をことごとく取り除き、餓鬼の世界から脱出できますように。
修行者がこのように五如来のお名前を唱えれば、ブッダの威光によってご加護が得られるので、全ての餓鬼などの数え切れない罪はなくなり、無限の幸福が得られる。美しい姿、広大な身体、恐怖のないことを得て、飲食物を受け、不死のご馳走に変わり、すぐに苦しみの身を脱出して天や浄土に生まれ変わる。
食事を施し終わったら、修行者はさらに餓鬼などのために菩薩の一体戒陀羅尼を唱える。いつも3回唱えて手は合掌する。
ॐ समयस् त्वम् オーン、サマヤス、トヴァン(oM samayas tvam オーン、あなたは如来と一体である)
3回唱え終わったら、全ての餓鬼は皆、秘法を獲得し、一体戒を具え、限りない幸福を得る。
餓鬼に施して皆満腹となったならば、陀羅尼で送り出し、もともとのところに帰らせなければならない。送り出す陀羅尼は、
ॐ वज्र मोक्ष मुः オーン、ヴァジュラ、モークシャ、ムフ(oM vajra mokSa muH オーン、金剛よ、解脱よ、解脱あれ)
この送り出す陀羅尼を唱えるならば、まず印を結ぶ。右手で拳を作り、親指で人差し指をひねって指を弾き音を鳴らす。これを発遣啓という。いつも食事が終わったら17回指を弾けば、全ての餓鬼はこの食事を受けて帰らせることができる。送り出さなければ餓鬼は帰っていかない。作法に不備があれば、餓鬼に施しても行き渡らせることができない。食事を受けられる餓鬼と受けられない餓鬼が生まれ、功徳がなくなるのは悲しいことである。もし修行者が菩提心を起こしてこのように修行するならば、この作法で餓鬼に施し、全ての餓鬼を満腹にし、不足することはない。この作法を保持する人はこれを知らなければならない。飲食物を加持する陀羅尼でひとつの器に入った飲食物を清らかな川に流せば、全てのバラモンたちは皆この食事を受け、食べ終わって異口同音にその人が現世で寿命が延びるように、ブラフマー神の威徳を具え清らかな修行ができるように祈ってくれる。この陀羅尼で全ての水や香華や飲食物などのお供えを加持するならば、21回唱え、その後で仏に供えれば、上記のような功徳がある。十方の全ての諸仏を供養することで、施焦面餓鬼一切鬼神陀羅尼経と異ならず、救面然餓鬼陀羅尼経と区別される。