著・ダフナ・ジョエル&ルバ・ヴィハンスキ、訳・鍛原多惠子
人間の脳は「男脳」「女脳」に二分されるのではなく、「男性的な特徴」「女性的な特徴」がモザイク状に入り混じっており、そのパターンは多様で個人差が大きい。それなのに人を男性/女性にバイナリー(二分法)で考えるのは幻想=ジェンダーバイアスであり、無理があるという趣旨。
- 女の赤ちゃんの言葉が早いのは、生得的なものではなくて大人が男の赤ちゃんより女の赤ちゃんに多く話しかけているから
- 比較的短い時間のストレスで一部の脳の特徴が男性的なものから女性的なもの、あるいはその反対に変化する
- 父親も赤ちゃんの誕生前後に産後うつ病になる場合があり、その割合(4.4%)は母親(5%)と近い
- 男女の話し言葉の違い(相手と目を合わせない、相手の発言を遮る/理由なく微笑む)は、性別ではなく地位の違いであることが多い
- 男児はブロックや車、女児は人形を好むのは、両親の「やっぱり男の子だな!」「本当に女の子ね」などといっているうちにそうなる
- 一人の人間は一貫して男らしいか女らしいはずだという暗黙の了解がモザイクを見えづらくする。詩を好むサッカー選手もいる。
- 大学教授に架空の研究室長に応募した架空の書類(中身は同じで、名前だけ「ジョン」か「ジェニファー」)を評価してもらったところ、男女問わず「ジョン」を高く評価した
- 男の子は泣いても無視されたり「男の子でしょ」と叱られたりした結果、温かさや思いやりが育たず、女の子は怒ると「女の子らしくするのよ」といわれて自己主張する能力が育たない
- Facebookの性別欄は今やカスタム・オプションで71の選択肢がある。免許証・身分証明書・出生証明書で性別を特定しないものも出始めている
- トランスジェンダーの中にも反対のジェンダーになりたいという人ばかりではなく、男女どちらとも感じる人も、どちらでもないと感じる人もいる
- 英米で「おもちゃは皆のおもちゃ」運動。「男の子向け」「女の子向け」ではなくテーマや機能によって分類し、子どもに決めさせる
- 育児を男女で分けるやり方は有害。父親と一緒に過ごすことの多かった赤ちゃんは、幼児期に行動上の問題を起こすことが少なかったり、就学後の成績が優れているという研究もある
- アメリカのオーケストラが目隠しオークションを行ったところ、女性演奏者の割合が6%から21%に増加した
- 学会で男性の大物から選び、女性を補充要員にしていると、いつまで経っても女性が増えない。これを「不可視の悪循環」という。女性を優先して、男性を補充要員にした会議は成功を収め、大きな成果を収めている。「もしこの男性研究者が女性だったら、自分たちは招待しただろうか?」
私はシスジェンダー・ヘテロセクシュアルだと思っていたが、自分の中に女性的な特徴があり、妻の女性的・男性的な特徴の両方に惹かれていると考えると、トランスジェンダー要素もバイセクシュアル要素もゼロではない。このように皆それぞれ多様であれば、性的多数も少数もなくなる。
それよりも著者が言いたいことは、ジェンダーは個性の中のほんの一部分に過ぎないということだろう。性別という色眼鏡を外して、それぞれひとりの人間として見る。そんなことを心がけようと思う。