ガンジー誕生日で祝日。いろいろと用事を作って市内に向かう。以前大学の近くに住んでいた頃と違って、中心部まで1時間もかかるので最低でも3つぐらい用事を作らないと行く気が起きない。今日の用事は映画、ジョドプーリーというインド風スーツ探し、あとはあとは…と思ったところで留学で来たばかりのAさんを誘って(頼まれてもいないのに)市内を案内することにする。これで3つ。9時30分発のバスに乗って出発!
映画は久しぶりのイースクエア。大学の近くにあるので以前はここばかりだったが、今は駅の近くのアイノックスに行くことが多い。どちらも最近できたシネマ・コンプレックスだが、あらゆる点でイースクエアに軍配が上がる。施設内にクロスワードという本&CD屋があること、イタリア・中華などのレストランがあること、ベンチがあって館内でくつろげることといった外側だけでなく、ホールも席の配置、映画の音響や画質がよく、より没頭して見ることができる。引越しで行きにくくなってしまったのはつくづく残念だ。
Tumsa nahin dekha(君のような人を見たことがない)
〈あらすじ〉
富豪の御曹司ダクシュは親のすねをかじって何の仕事にも就かず、毎日飲んだくれていた。そんなある日、雨のバス停にいた女性を一目で好きになり、酔っ払った勢いで近づいていっていきなり抱き寄せ、キスをしてしまう。警察に捕まって連行されるが、おじのジョンが身元を引き受けてくれて釈放。きつく叱られる。
その頃ダクシュには親が決めた縁談が舞い込む。相手も富豪の娘で前から知っている女性だったが、両家のビジネスのための政略結婚だった。全く結婚する気にもなれなかったダクシュだが、断るなら勘当すると親から脅されてしぶしぶ承諾。また飲んだくれていると、たまたま寄った酒場であの女性がダンサーとして踊っていた。仕事帰りの彼女をつかまえ、お茶に誘った。お金をもらって誘いに乗る彼女の名前はジアと言った。知能障害者の兄と2人暮らしで、借金を返すために酒場で働いていたという。
ジアは飲んだくれのダクシュを嫌っており、二度と近寄らないように言う。ダクシュは10ルピー札に「ダクシュはジアを愛している」とボールペンで書き込み、「この10ルピー札がまた戻ってきたらこの愛は叶う」と言ってそれでワタアメを2つ買った。しかしそれも聞かず、去っていくジア。
しかし後日、飛び降り自殺をはかった兄をダクシュが救ったことから2人は急速に接近し始める。デートを重ね、ホタルが舞う池で、ダクシュの無邪気な姿を見ながら次第に惹かれ始めるジア。しかしダクシュの婚約式は次第に近づいていた。ジアに婚約を打ち明け、自分の財産を小切手にして持ってきたダクシュを、ジアは怒って追い返す。しかしダクシュを好きになっていたジアは、何も分かっていない兄を抱き寄せ、扉の陰で泣くのだった。
そんなころ、ダクシュが唯一気を許して何でも話していたジョンおじさんが病に倒れて入院する。ダクシュは病院を訪れて悩みを打ち明け、元気な彼に励まされた。そのおじさんがやがて癌だと判明。しかしジョンおじさんは病院を抜け出してジアを訪れ、「ダクシュは君を愛している」と言ってプレゼントを渡し、婚約式に来てダクシュを奪うように言う。そのプレゼントは純白のドレスだった。これを着て婚約式に出たジアは、ダクシュとひとときのダンスを踊ったが、両家の力で婚約は挙行されてしまう。
やがて結婚式が近づいてきたが、ダクシュはジアのことが忘れられない。そんなとき、入院していたジョンおじさんは最後にダクシュと教会に行き、「人生はおまえのものだ、おまえだけの…。神のご加護があらんことを」とダクシュの幸福を祈り、そして他界する。
おじの死後も飲んだくれていたダクシュだが、結婚式当日になって意を決し、ジアの家を訪れる。ジアは借金取りに家財道具を全て取られ、喫茶店で働いていた。弟から居場所を聞いてジアのはたらく喫茶店に向かうダクシュ。ジアは客が出したチップの10ルピー札に、「ダクシュはジアを愛している」と書いてあるのを見つけた。あのときの10ルピー札が再び帰ってきたのだ。そのときダクシュが喫茶店に現れ、「ジア、僕と結婚してくれ」とプロポーズ。ジアは涙ながらに「はい」と答えた。
2人は結婚式場に向かい、ダクシュは結婚相手に「僕は君のことを愛していないんだ」と打ち明ける。怒ったのはその親で、ボコボコに殴られてしまう。結婚式は当然取りやめ。気を失ったダクシュをジアは介抱する。怒って出ていった祖母に呆然とするダクシュを、ジアはいきなり抱き寄せキスをした。
〈感想〉
実にいい映画だった。好きになってはいけない2人が恋に落ちて、幾多の困難を経ながら最後にその恋を叶えるというラブストーリーものの王道に、幸せを願う身内の死というスパイスが見事にきいている。飲んだくれのお坊ちゃまを、辛酸をなめてきた彼女が好きになってしまうのはどうかと思ったが、それ以外の展開はごく自然で、主人公に感情移入することができた。瀕死のおじが教会でダクシュを勇気付けるシーン、ダクシュが結婚式当日にジアにプロポーズをするシーンはうるっとくる。
音楽もよくできていた。特に主題歌となっている「Maine soch liya(私は思った)」が印象的。しかし何よりも印象的だったのは、ジア役のディヤー・ミルザーの美しさだろう。アイシュワリヤー・ライに雰囲気が似ているが、また別の魅力を持っている。演技も下手でないのに、あまり出演するのを見ないのはどうしてだろう。アイシュワリヤーとキャラクターがかぶってしまっているからだろうか。
いきなりのキスで始まり、いきなりのキスで終わるシーンや、10ルピー札が戻ってくるシーンなど、ベタベタだと自分で分かっていながらその劇的効果に感動してしまう自分がいた。こういう映画はハリウッドや日本ではもう作られていないし、日本で公開されても若い客は入らないだろう。「冬のソナタ」が年輩の人を中心に流行っているのも同じ理由だ。だからこそ、インドで見ておく価値は非常に高いと思う。
今年はこれから豪華キャストのラブストーリー映画が控えている。早く見たい。
何の映画を見るかも教えずに誘ったAさんは初めてのヒンディー映画だったというが、楽しんでいただけたようである。去年の今頃の私を思い出すと、ヒンディー映画なんて分からないだろうと思っていた。しかしホームステイ先のアムルタさんに連れて来てもらってから、ひとりでも見に行くようになった。娯楽がほとんどないインドでは、ヒンディー映画の面白さに触れないままでいるのはもったいなさすぎる。きっかけさえあれば、ヒンディー映画は言葉が分からなくても誰でも十分楽しめるものだと思う。
その後プネー随一のデパート・ショッパーズストップに行くも思うようなスーツが見つからない。私がほしかったのは、先日の国連総会でマンモーハン・シン首相が着ていたようなジョドプーリーというスーツ。小泉首相やブラジル大統領、ドイツ外相と常任理事国入りを目指して握手していた写真でひとりだけ違うスーツを着ていた。つめ襟でずっと上までボタンがあり、ネクタイは締めない。学ランのような感じだが、色はグレーでボタンもシックである。インドの民族衣装は日本に帰れば仮装パーティーででもないと着れないが、このようなスーツならさりげないインド感を出しつつ普通に着こなせる。
次にラクシュミーロードにある紳士服の専門店、ジャイヒンド・コレクションに向かう。そこでも既製品はなかったが、オーダーメイドならできるという。そんな値段が違うでしょと思ったら何と、既製品と同じ値段(上下で約9000円)。インドの人件費の安さはこういうところでも感じてしまう。布を選び寸法を取ってもらって、スーツを作るのは生まれて初めてだ。どんなものができあがるかやや心配だが、なかなかいい気分。
そしてAさんがまだ行ったことがないというのでサンスクリット語の本屋や土曜宮殿などラクシュミーロードの近くを案内し、プネー市役所前ターミナルからバスで帰宅。何だか案内というよりも連れ回したという感じで申し訳なかったが、おしゃべりしながら街を歩くのは楽しい。サンスクリット語の本屋では子どものための読本全四巻と会話の教科書が収穫。会話の教科書を開いたら、第一課がいきなり「飛行機墜落事故で生き残った人にインタビューする」というぶっ飛んだスキットだった。「あなたはどうして助かったのですか?」「謎の力で何とか助かりました」「他の人は今どこにいますか」「たぶん皆死んだと思います」……実用的でない(笑)。