晋山結制式

2021年5月15日・16日にわたって当山で晋山結制式が行われた。晋山結制式とは、お寺に住職が正式に就任する儀式のことで、就任を祝うとともに、お寺に集う人々の信仰と修養のため、近隣のご寺院様方を集めて大問答をもって修行をさらに深める法要である。しかし私が住職になったのは1998年。「23年も経って正式就任とは?」と思う方もいらっしゃるかもしれないが、一人前の住職となるにはそれくらい時間がかかるものだと、やってみて改めて感じる。若僧の私にはそれでもまだ足りないくらいである。

この式を行うと和尚から大和尚になり、緋色の衣を着られるようになるが、ややこしいことに曹洞宗には「法階」と「僧階」がある。「法階」は上座、座元、和尚、大和尚の4つで、「僧階」は三等教師、二等教師、一等教師、正教師、権大教師、大教師、権大教正、大教正の8つ。すべての「法階」「僧階」に別々の衣の色があるわけではなく、地方寺院でも見られる衣の色は、大和尚の緋色と、権大教師の黄色ぐらいだろう。

先代住職が晋山結制式を行ったのは昭和27年。その孫ということもあって一世代空いたため、実に69年ぶりである。5年前から準備が始まり、1年目には総予算の策定、2年目にはお檀家さんの説明会と本堂の大規模改修工事、3年目には境内の整備工事、4年目には開催の予定だったがコロナ禍で延期となり、5年目にようやく開催に漕ぎ着いた。

先代の晋山結制式。昭和27年

晋山結制にあたっては首座(しゅそ)という弟子を取ることになる。弟子を取らなければ大和尚になれないが、首座も将来お寺の住職になる人は必ずなっておかなければならない。私も27年前に隣町のお寺さんで首座を務めさせて頂いた。次世代を担う弟子を育てることは、大和尚になった者の義務である。親子というパターンもあり、長男も首座ができる年齢だったが、今回は日頃から経典勉強会で親しくさせて頂いている隣町のお寺さんにお声がけして、永平寺で修行した息子さんに首座になって頂いた。

また、晋山結制は首座だけでなくたくさんのお寺さんの協力が必要である。今回は首座を含め45名のご寺院さんにそれぞれのお役をお願いした。その打ち合わせ・準備・ならし(リハーサル)に集まって頂いた回数は数え切れない。直前はほぼ連日・深夜までとなり、1ヶ月で体重が2kgぐらい減ったが、式全体の準備を仕切る「焼香侍者」、法要ごとに変わる仏具類を準備する「知殿」、控室を準備する「内寮」の和尚さんたちはそれ以上に大変である。

差定(法要の次第)は以下の通り。これだけ盛りだくさんの法要をスケジュール通りに進めるには、周到な準備が必要である。
1日目
□教区・知殿寮御寺院参集 午後1時00分
□入寺式案内御寺院参集 午後1時30分
□西堂老師御到着 午後2時00分
□首座入寺式 午後2時30分
僧堂鐘一会、住持入堂、版三下、維那巡堂白槌、知事致語、首座致語、首座就位、維那告報、普同三拜、散堂

□土地堂念誦 午後3時00分
巡版三下、七下鐘住持入堂、献湯菓茶、検炉、出班焼香、念誦、十仏名、回向

□本則配役行茶(公案:百丈野狐) 午後3時30分
茶鼓一通、住持入堂、配役宣読(西堂)、大衆請拜、住持告報、首座請拜、本則提唱(堂頭)、行茶(コロナ感染防止のため省略)、鼓三下、散堂

□薬石(コロナ感染防止のためお土産)

2日目
□堂頭侍者総代長宅へ移動(自動車) 午前7時20分
□総代長宅諷経 午前7時40分
□総代長宅出発・稚児行列 午前8時15分

□御寺院参集 午前8時00分
□御到着
大本山總持寺御専使 五鏧三拜 午前8時20分
大本山永平寺御専使 五鏧三拜 午前8時25分
西堂老師      五鏧三拜 午前8時30分
本寺白槌師     五鏧三拜 午前8時35分
□山門頭到着 梅花流御詠歌で出迎え 午前8時50分
□晋山式(置茶湯) 午前9時00分
山門法語(階段上段)、新命大擂上殿、巡堂(法語一括・献香のみ 佛殿・土地堂・祖堂・開山堂)、普同三拝、挙心経、回向、普同三拝、許状伝達(所長)、記念品贈呈(堂頭法幢師、教区代表)、祝衣贈呈(護持会長)、新命退堂、散堂

□晋山上堂(両班椅子) 午前9時45分
巡版、空座問訊、住持大擂上殿、下語、登座、拈香、対座問訊、代衆請法(北面低頭)、白槌、垂語、問答、提鋼 自叙・謝語・拈則・結座、白槌(終わって梅花独詠)、下座、祝辞(正面にて)〔永平寺専使、総持寺専使、所長、護持会長〕、祝電披露(法要解説)、祝拜、住持退堂、散堂

□首座法戦式(両班椅子) 午前11時00分
巡版、殿鐘三会、大擂上殿、上香献湯菓茶普同三拜、擧心経、擧則、巡拜、拈竹篦、問答、謝語、巡拜(梅花独詠)、祝語(所長、總持寺御専使、永平寺御専使、西堂、白槌師、本師、堂頭)、普回向、普同三拜、祝電披露(法要解説)、祝拜(西序露柱前)、散堂

□記念撮影(御寺院、総代役員・梅花講員・親族) 午前12時00分
□祝賀会(コロナ感染防止のため中止)

当日まで心配だったのが天気。週間天気予報によると2日目の降水確率は60%。でも午後から降るとある。雨が降ると稚児行列は中止、写真撮影は本堂内となってしまうため気が気でなかったが、当日の午前中は何とか晴れた。昼頃から雨になりそうだったため、集合写真撮影は山門に到着した直後に済ませる。結果として雨が振り始めたのは御寺院さんがあらかたお帰りになってからだった。翌日からは連日の雨、ぎりぎりセーフ感がすごい。

新型コロナ感染防止策はご時世柄必須である。三密の回避(控室のパーティション、窓の全開、役員のみの参列)、参加者の制限(県内のみの参加、堂頭と家族は2週間前から県外に出ない、当日風邪症状があったら休む)、会場の消毒(入口の手指消毒、会場内に除菌スプレー、衛生係による会場内の定期消毒)、全員マスク着用、飲食の制限(控室はペットボトルと紙コップ、行茶・薬石・祝賀会中止)を行った。一番避けたい事態は、住職が陽性または濃厚接触者となって式自体が再延期されることで、外出も最小限にした。

その他にも、参加してくださるご寺院さんへの拝請披露、足りない仏具類の貸借、宗務庁や本山への申請、役員の係割、境内・本堂の片付けと清掃、差定・配役・法語・謝誼などの書き物など多岐にわたるが、ほかのご寺院さん・寺役員さん・葬儀社のご助力により、当日が近づくにつれてだんだん楽になっていった印象がある。おかげで今回の法要のかなめとなる提唱や問答のことを考える余裕があった。お寺はたくさんの方に支えられて成り立っているということが改めてわかる。

晋山上堂では、嗣承香(亡き師匠に感謝を捧げる焼香)で泣かなかった代わりに、問答で「緋の衣でお葬式をあげてもらう」と言っていた檀家さん(間に合わず)のことを思い出し泣いてしまった。新聞の写真は問答の後、放心状態で宗務所長から御祝辞を頂いているところ。

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