情緒的応答性

山形県家庭教育支援フォーラム「特別な支援を要する子どもの育ちを支える環境づくり」(宮城教育大学・植木田潤教授)を聴講。発達障害の話だったが、大人にまで通じそうな話でたいへん為になった。

自立・共生に必要なものはまず第一に「身体的な体力や健康であること」、その次が「不安にくじけない情緒面の安定」で、それは人とのつながりで形成され、次第に内面化された人が自身を支えてくれるようになる。人とのつながりで重要なのが、情緒的応答性。自分では扱いにくい感情を大人に預けて解毒するということである。

【情緒的応答性】 Emotional availability
自我心理学のM.マーラーにより提唱された概念で、乳幼児期における養育者と乳幼児の感情的な交流における養育者側の必要な態度を表す。
乳幼児が自分の欲求や衝動あるいは感情に基づいて何かしらの発信行動を示したとき、養育者がその発信行動を共感的に受け止めて、その背後にある意味を解釈し適切な対応を乳幼児ができるように適切に反応し返すことをさす。
情緒的応答性とは、言い換えれば、乳幼児の発信行動に対する養育者の情緒的表現や反応を利用して乳幼児が自分の抱える不安を除去したり欲求あるいは願望を叶えられたりするように、養育者が共感的に応じることである。
情緒的応答性が適切に示されれば、乳幼児は、自己信頼と他者信頼の感情を獲得し安定した対人関係を構築する能力の基盤を発達させることとなる。
臨床心理の参考書

例として挙げられたのは、今度保育園に行くことになった子どもが、親に「私がいないと寂しくなるから、ぬいぐるみを置いておくね」というケース。本当に寂しいのは子どもであり、その感情を親に預けることで解消しているというわけである(この例は聴いただけで泣けてくる)。そこで親が肯定してあげないと、子どもは感情を処理できず情緒面が安定しなくなる。子供の八つ当たりも情緒的応答性で捉えられるとのこと。

こういったことを繰り返すうちに自分の中に良き対話の相手が生まれ、独りでも自己対話の力、内省する力が育ってくる。これこそが「こころの免疫力」レジリエンスだというわけである。だから子どもの話を聞くことで、不安や不満を言葉にして対象化し消化することを促し、話を聞いてもらう価値があることを再確認させて自尊感情を増し、独りではないと感じることで現実に向き合う勇気が湧き、感情を受けとめてもらったことでアタッチメント(愛着)欲求(危険を感じるとくっつきたくなる)が満たされて安心するという。

このことは乳幼児期に限った話ではなく、大人にも通用するように思われる。人権相談でいらっしゃる方の大部分が傾聴だけで満足されるのは、言葉にすることでモヤモヤが解消し、尊重してもらったという思いで満足し、共感してくれる人がいたことで問題を解決する勇気をもらうからだろう。批判はもちろん、助言すら必要ないことも多い。

ストレス解消の手段として、「亡くなったおばあちゃん(や家族)を思い出しながらスージングタッチ(自分の手で胸や腹や手をやさしくさする)」というのを紹介することがあるが、これも大人が情緒的応答性を呼び起こすひとつの方法といえそうである。さらには、仏壇やお墓に手を合わせるという行為もそうなのかもしれない。御本尊様や御先祖様に、自分のネガティブ情動を預け、そのまま共感してもらう(と思う)ことで解毒しているというわけである。

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