『ZENタイル ベーシック』

作・川口洋一郎/ちゃがちゃがゲームズ(2020年)

コロナ禍によるステイホームで、家族でできるものとしてボードゲームが注目されている。ボードゲームとは、電源を使わないゲーム一般のことで、双六、囲碁、将棋、人生ゲームなどを総称したものである。今は世界中でたくさんの新種が発売されており、日本でも愛好者が自ら考案したものを次々と発表している。

『ZENタイル ベーシック』は、福井県越前市の会社員・川口洋一郎氏が開発したボードゲームである。どんなゲームかというと、「楽」「疲」「寂」「愛」などが書かれた碁石を3枚引いて、その中から1枚選び、その気持ちになった昨日の出来事を話す。ほかの人はそれを聞いて、どの気持ちだったのかを当て、たくさん当てた人が勝つという単純なゲームである。

勝敗はさておき、このゲームをしなければ決して聞けなかったようなエピソードが出てきて、相手のことをより深く知ることができる。筆者のお寺で以前、アメリカの方とこのゲームを遊んだが、ご家族や日本の印象など、興味深い話を聞くことができた。

自分の感情を振り返るという意味で、無想の「禅」というよりは「念」に近いが、どんな小さな感情の動きも見逃さず、毎日を穏やかに送るには心を日々調えることが大切であるとこのボードゲームは教えてくれる。

「内部に心を観察しており、あるいは、外部に心を観察している。心における生起の法を観察しており、あるいは心における衰滅の法を観察している。そしてまた、知った分量だけ、記憶した分量だけ『心はこのようなものである』という思念がかれに現われ起こる。そしてかれは依存せずにおり、また世間のなにものをも執取しない。このように、比丘は心を観察している。(中部経典10『念処経』)」

曹洞宗報に「菩提寺(住職)に対する不満」として「態度が高圧的」というものがあった。立場上、また特に年を取るほど普通に物を言っているつもりでもそう受け止められてしまうことがあるのかしれない。しかしボードゲームでは老若男女みんな平等であり、上下関係のないのが心地よい。いつの間にか意固地になってしまっている心を解きほぐし、法界の平等利益を自分の心から周囲に広げることができたらいいなと思う。
(『参禅の道』73号に寄稿)

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