陀羅尼の発音と意味

お隣の宗務所の現職研修会資料を作成。「陀羅尼の発音と意味」というテーマで、曹洞宗でよく読まれる6つの陀羅尼を原文の発音に近い読み方で読む提案と練習をする。

陀羅尼がサンスクリット語から中国語に音写されたのは1500年も前で、さらにそこから非サンスクリット話者によって語り継がれてきたのでもとの発音から大きくかけ離れてしまった。仏の教えが凝縮された言葉は、正しく発音してこそ感応道交する。

最近、悉曇文字のフォントを見つけたので、デーヴァナーガリー文字から差し替えた。現代のデーヴァナーガリー文字よりも当時の文字に近い。

陀羅尼とは
①唱えるだけでご利益
精神を集中して仏法を憶持(総持)すること、あるいはその結果として得られる精神集中状態。後に転じて咒として、除災などの諸功徳をもつものと考えられるようになった。(『仏教・インド思想辞典』)

②正しい発音が大切
「言葉が一定の法則により、文章として綴られ、発せられる時その音は霊界にまで届き、神仏は嘉納し加護を垂れ賜い、精霊はその化益を蒙るのである」「ダラニは釈尊が話されたとおりに読誦してこそ、言葉として意味があり功徳が生ずる」「陀羅尼をあげる時には、この陀羅尼は『仏様の金口の親言』なることを信じ、三昧に住し声高らかに唱えるのである。その時感応道交し諸仏諸天の冥助が得られるのである。すなわち入我我入し咒と一体・仏と一如となるので、その誓願力に加持せられ功徳が成就するのである」(『洞門五陀羅尼』)

③成立は比較的新しい
当初、仏教は呪いや占いを一切禁止し、自分の力に頼って修行するという立場だったが、民衆化、大乗仏教の発展、仏教の支持基盤だった商人階級の衰退により、グプタ朝期(4~5世紀)頃からバラモン教、ヒンドゥー教、民間信仰から陀羅尼を取り入れ、現世利益をはかる密教が成立した。(中村元『現代語訳・大乗仏典』)

④梵語と梵字
陀羅尼は梵語=サンスクリット語で書かれており、甚深微妙で不可思議な秘密の語であるとして漢語に翻訳されず、漢字で音写された。一方、梵語を書写する文字の一種である梵字=悉曇(しったん)文字によって書かれることもある。当然、漢字より梵字のほうが忠実に書写できる(長母音、複合子音など)。

曹洞宗で読まれる主な陀羅尼
○般若波羅蜜多心経
唐の玄奘(602~664)が漢訳。究極の悟りの核心は明咒であると説く。『大般若経』理趣分品には3つの陀羅尼が収録されている。

○大悲心陀羅尼(千手千眼観自在菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経)
唐の時代に西天竺の迦梵達摩(650年頃)が漢訳。補陀落山にある観世音宮殿にて、世尊に促されて観世音菩薩が披露した陀羅尼。大慈悲心、平等心、無為心、無染著心、空観心、恭敬心、卑下心、無雑乱心、無見取心、無上菩提心という十心を表したものだという。

○仏頂尊勝陀羅尼(仏頂尊勝陀羅尼経)
唐の仏陀波利が683年に漢訳。世尊の肉髻(頭頂部の盛り上がり)から放たれた光によって、悪い境涯への転生を避ける。

○楞厳呪(大仏頂如来密因修証了義諸菩薩万行首楞厳経)
唐の時代に中天竺の般剌蜜帝が705年に漢訳。
修行を妨げる者たちに対する対抗呪文で災いを排除し、仏道修行を成就させる。

○消災妙吉祥陀羅尼(仏説熾盛光大威徳消災吉祥陀羅尼経)
唐の不空(705~774年)が漢訳。
熾盛光仏の頭頂から放たれる光明によって星辰の配列を調え、災いをなくす。

○甘露門(施諸餓鬼飲食及水法、仏説救抜焔口餓鬼陀羅尼経、大宝楼閣善住秘密陀羅尼経、不空羂索毘盧遮那仏大灌頂光真言)
唐の不空(705~774年)が漢訳。
餓鬼(プレータ)を集め、喉を開いて飲食で満腹にし、菩提を成就させる。

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