今年のお盆は、法事が滅法少なかった。以前は8月14日(迎え盆の次の日)が1年で最も法事の多い日で、早朝から1時間刻みで回っていたものだが、今年は朝の1件だけ。おかげで棚経をゆっくり回ることができた。
棚経で回っていると、檀家さんから「お盆だから忙しいでしょう」とよく言われるので、近年はお盆中の法事が少ないという話をして、原因を一緒に考えてもらった。
- お盆休みがなくなって、お盆は働き、それ以外に夏休みを取るようになったのでは?ー伺ってみると、お盆休みはしっかり取っているという方が多い。この推察は当てはまらないようだ。
- お盆は夏祭りの準備やあいさつ回りで忙しいから?ー近年は、親戚が泊りがけで滞在するお家が少なくなり、お盆礼もあまりゆっくりせず帰ってしまう。夏祭り準備は確かにたいへんだが、以前からあったこと。
- お盆中は暑いので、お墓参りやその後の食事のことを考えて避けている?ーO157騒動のとき、食中毒を心配して夏場の法事が少なくなったことがあったが、一時的なものだった。参列者の高齢化が進んでいるので、お墓参りで熱中症になる心配は確かにあるが、それだけで法事をずらすとは考えられない(年配の方には、お墓に行かないで留守番していてもらうという選択肢もある)。
- 東日本大震災以降、不景気か、多忙かの両極端になっているー不景気だと法事を行う資金繰りがつかない可能性があり、多忙だとそこまで気が回らない。
ほかのご寺院さんにも伺ってみたところ、同じような傾向があったがはっきりした原因は分からない。ちなみに近年、法事が最も多いのは4月末のゴールデンウィーク前半である。
さてお盆の行事でよく訊かれるのは、「送り盆は何日か?」ということである。暦には8月16日となっているが、近隣では15日に家の前で、薪に火を付けて送るところが多い。
『仏説盂蘭盆経』ではお盆の供養日は7月15日と定められているが、太陽暦になってからも7月15日のまま行う地域と、1ヶ月遅らせて(太陽暦は太陰暦より約1ヶ月遅い)8月15日にするところに分かれた。このほか地域によって、1日(釜蓋朔日)、7日(七日盆)、20日(二十日盆)、24日(地蔵盆)に行事を行うところもある。広義では1日から24日がお盆の期間ということになるだろうが、狭義では13日からの3日間か、14日からの2日間がお盆の期間である。いずれにしても、15日が中心となる。
問題は、15日に供養をした後、いつ送り出すかである。江戸時代に「十六日夕に送り火をたく」という記述がある(『越後国長岡領風俗問状答』)。十六日といっても、日付が変わってすぐというところから、未明、夕方、夜というところまである。ところが、精霊流しは15日の夕方に行うのが有名。
15日か16日か、この謎について調べたところ、次のようなサイトを見つけた。
そして、いよいよ満月です。暦は、十五日か十六日。月の満ち欠けの周期、「朔望周期」は、29.5日。この割り切れないことと、ついたち「朔」の日の決め方のせいで、満月は必ずしも十五日にはなりません。十五日満月と十六日満月になる確率は約半分だといわれています。
武蔵屋マニアックレポート:送り盆の日にち
昔は、月の満ち欠けを見て行事を行っていた。太陰暦では、1日に新月、7日か8日に上弦の半月、15日か16日に満月、22日か23日に下弦の半月となる。送り盆を満月の夜にしようとすると、15日であったり、16日であったりすることが地域によってずれる元になったという。
そうだとすれば、お盆の行事は暦を見て行い、送り盆は月を見て行ったということになる。基準が別なのである。
このようなわけであるから、15日と16日のどちらが正しくて、どちらが間違っているということはできない。ましてや太陽暦では、月の満ち欠けと全く関係ないので、各地域、各家庭の決めようだということになる。檀家さんに訊かれれば「お宅で今までやっている通りで結構です」と答えるようにしている。
ちなみに私のお寺では、迎え盆はするが送り盆は以前から行っていない。追い出すようなことをしたくないからなのか、忙しいからなのか、それとも単なるずぼらなのかは分からないが、精霊たちがそのままお寺に留まってくれても結構である。
(参考:蒲池勢至『お盆のはなし』)