『ゾロアスター教』

古代アーリア人のザラスシュトラ・スピターマ(紀元前12〜9世紀、ギリシア語でゾロアスター、ドイツ語でツァラトゥシュトラ)が創始し、現代ではインドで儀式が細々と行われているだけのゾロアスター教を俯瞰した書。
「拝火教」とも言われるが著者によれば火を通して神に祈るのであって火自体を拝んでいるのではないからおかしいそうな。さらには西欧では黒魔術みたいに言われていたが、実際の祭式は悪魔から防御するというだけの受身の目的しかない。
アフラ・マズダー(叡智の主)とアンラ・マンユ(大悪魔、高校ではアーリマンと習った気が)の対立で全てが説明される善悪二元論の宗教が、ひとりの創案によるものだとは知らなかった。「この世は善と悪の闘争の舞台であり、そこに生まれた人間は、善と悪のどちらかを選択して、この闘争に参加する義務があるというのである。」
祭式でハオマ草(インドではソーマ草)を用いるなどバラモン教との共通点、祖霊(フラワシ)信仰=盂蘭盆、ミスラ神・救世主(サオシュヤント)信仰=阿弥陀仏・弥勒菩薩、ズルヴァーン・アナーヒター女神=観音菩薩などの仏教への影響、紀元後3世紀にゾロアスター教を国教としたサーサーン朝期の『アベスターグ(近世ペルシア語でアヴェスター)』におけるプラトン・アリストテレスに触発されたと思しき時間論・存在論、7世紀以降のイスラム改宗と生活様式の保存、ルネッサンス期にビザンティン王国から伝わった虚像とニーチェの『ツァラトゥシュトラはかく語りき』、そしてナチスのアーリア民族至上主義での英雄視と、異文化の接触を入念に描いているのが興味深い。
著者は大学の同級生。すでに多くの文献が失われて研究が困難である上に、日本社会とのリンクも少なくマイナーな分野だが、書いてあることの裏づけをきちんととり、広範な地域(アルメニアやアゼルバイジャンまで!)の調査を加味するという地道で妥協のない姿勢を見習いたい。

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