『インドの衝撃』

3部にわたって放送されたNHKスペシャルの反響を受け、記者たちが書き下ろした最新のインドリポート。番組の構成をなぞりつつ、テレビでは伝え切れなかったコラムや記者の感想を綴る。
第1部「わき上がる頭脳パワー」ではMITより難関と言われるIIT(インド工科大学)の卒業生のITに限らない広範な活躍ぶり、その元になったネルーの頭脳立国構想、そしてIITをめざす貧困層の努力ぶりに焦点を当てる。
「“学ぶ力”とは、個々の事例から共通する要素を汲み取り、それを他の事例に応用して役立てることができる力を意味します。変化に対応でき、そんなに新しい状況が生まれようとも、迅速に判断できるように社員たちを常に磨き続けているのです」
「私たちは常に解くべき問題を探しています。問題を解くのが大好きなのです。誰か、私たちに解決すべき課題を与えてくれないかと、いつも思っているのです。」
(インフォシス・ムールティ会長)
第二部「十一億の消費パワー」では景気の拡大によって購買力が急上昇した新中間層に密着。都市部に次々と開店する巨大スーパー「ビッグバザール」、洋服や家電製品、さらにワインなどにお金を惜しまない人たち。ガンジーが唱えた清貧の思想はどこへ?
「このテレビがもう流行おくれだということに気づいたんです。やはり今は液晶化プラズマですね。格好いいですよ。」(ニューデリー郊外の高級マンション住民)
第三部「台頭する政治大国」では、1998年の核実験で冷え込んだ米印関係がどのようにして修復されていったかを、政府要人のインタビューを交えて丁寧に描き出す。そこにはインドがずっと抱き続けてきた大国意識と劣等感や、アメリカで活躍する在米インド人の政治活動があった。
「『あなた(クリントン大統領)が来ても、我々は条約に署名しない』というのでは、これは子供のゲームになってしまう。我々は共に大国であり、インドは非常に偉大な文明で、二大民主主義国家なのです。一定レベルの理解と成熟さをもって、この二国間関係を構築する必要があります」
(J.シン前外務大臣)
優秀な頭脳に対して学校にも行けないたくさんの人々、お金持ちの新中間層に対してすぐそばのスラムに住む人々、強いインドを掲げる政府に対して貧困から脱出できない農民まで、一面的にならないような取材になっており、インドの多様性が孕む問題まで捉えられていた。現代インドを知るのに格好の一冊と言えるだろう。

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