『おぼうさん、はじめました。―仏教サイコウ!東大新卒IT僧侶の修行日記』

大学を終えて就職先を考えているときにふとお坊さんになることを思い立った若い僧侶の日記。初出はブログなので文体が軽く、さらっと読める。
これといって面白いエピソードもないし、哲学科卒らしい論考もない「野郎の日記」だけれども、仏教やお寺に対する視点はきわめて斬新である。
「仏教コンテンツを売りこむこと」が仏教界に入った大きな理由のひとつだという筆者は、今のお寺が本来魅力的な仏教コンテンツに埃をかぶらせているという。コンテンツを時代感覚に適したものに料理し、インターネットなどの新しいチャンネルで発信し、潜在的なニーズを掘り起こし、そういう発信をする僧侶がお寺の大小に関係なく報われること。
したがって布教も、ただ仏様のありがたさを説くのではなく自分の言葉で伝えたい。僧侶同士で馴れ合い慕い合うよりも、庶民から慕われるように。檀家さんに「このお寺なら寄付して支えるだけの意味がある」と思ってもらえるようにいろいろチャレンジしてみよう。
実際に筆者は、東京・神谷町のお寺で寺院内カフェを開いたり、築地の本願寺でライブイベント「本願寺LIVE2005〜他力本願でいこう!〜」を成功させたりと、伝統教団がとってきたこれまでのスタンスから飛び出して活動している。
檀家制度や葬祭の意義が急激に変化している東京で、寺院が生き残るための新しい模索として捉えることもできるだろうが、寺院の社会責任など、全国的な文脈で捉えられるものも少なくない。最近、教団内の人の目を気にして小さくなっている僧侶としては読んで勇気付けられた。
それにしても、これだけ若い僧侶をどんどん法話会に招いたり、寺院内カフェやライブにゴーサインを出す浄土真宗も大したものだと思う。ほかの宗派もこれくらい積極的だったら、日本仏教はもう少し明るくなるのではないだろうか。

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