『ダメな議論―論理思考で見抜く』

いったん世間の常識となってしまうと、それが嘘でもなかなか翻せない。専門的な知識がなくても初歩的な段階でそういった世間の常識のウソを見破る本。
筆者は5つのチェックポイントを基準に挙げる。
1.単純なデータ観察で否定されないか
2.定義の誤解・失敗はないか
3.無内容または反証不可能な言説
4.比喩と例話に支えられた主張
5.難解な理論の不安定な結論
2と3は特に宗教・哲学関係で頻繁に用いられる議論であり、注意が必要だと思う。インド哲学の議論で誤謬とされる「すでに成立しているものの論証(siddhasaadhana)」はこのことを言うのではないか。
また4にちなんで筆者は拡大理論(日常の話題からの類推を社会全体に適用するもの)と縮小理論(歴史的な大事件を日常的な課題に用いるもの)を紹介するが、これは説得力が高いために注意したい論法である。
このチェックポイントに沿って、最近の若者は夢がない、ニートは根性がない、日本の物価は高い、日本の輸入依存度は高い、日本の財政は破綻状況にある、バブルが長期不況を招いた、政府が企業を統制する時代は終わった、日本の国際競争力は下がっているという、どこかで聞いたことのある半ば常識化した議論に批判を行う。どれも目からウロコの批判ばかり。
何となくそうだろうと思うと、そのフィーリングに合ったデータばかり集めてしまう。それが実際に真実であるにせよ、根拠を探す努力を惜しまないようにしたい。

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