基本的に文藝評論家入門だが、評論一般に通じることもある。それは数多く素材にあたること、周辺の知識を増やすこと、論理的であること、そして書いた文章を活字にしてもらう努力を続けることなど。
評論と論文の違いを明らかにして、論証の緻密さと閃きの鋭さのほどよい配合を説き、有名な評論を実際に評論してよい評論と悪い評論を提示する。続いてより実際的な出版の話に至り、最後に評論がダメならエッセイをと薦める。
「基本的な事柄とよくある過ち」で指摘される過度の一般化と定義の恣意性、そして「論争の愉しみと苦しみ」で著者自らの体験や文壇の実例から書かれた論争の条件などが興味を引く。
「論争というのは両者が何らかの前提を共有していなければ成り立たない」「批判に応答せずに自説を繰り返すのは、ルール違反である」というくだりは、私の専門であるインドの論争術において「他説承認」と「無駄な繰り返し」にある面において対応しており、ヒントを得た。
ところどころ大学研究室の内輪ネタや自分史、なかなかお金にならなかったり悪口を書かれたりしたことの愚痴などが書いてあって、テーマを逸脱しているしあまりためにならないように感じるが、読んでいて面白かったのでまあよし。
評論家になるには寸暇を惜しんで読書せよと書いてあるが、本書に引用・言及される膨大で多岐にわたる書物の列挙は、ちょっとした文学史の相を見せている。
必読とされながら読んでいない本・著者の多さに愕然。それゆえに、実例を見ても共感どころか理解できなかったところが多かったのが恥ずかしい。せめてレトリック学でもよく引用される福田恆存ぐらいは何か読んでおきたい。